有機薄膜形成とデバイス応用展開

技術者・研究者向けの専門書籍紹介
有機薄膜形成とデバイス応用展開


発刊日 2008年1月 ISBN 978-4-88231-985-6
体 裁 B5判 255ページ

発刊にあたって
 近年,有機材料を用いた電子・光デバイスの研究開発が活発化している。有機EL(electroluminescence) をはじめ,有機トランジスタ有機太陽電池など,さまざまな有機バイスが研究開発されている。地球上に存在する有機材料を含む物質や人間が作り出した物質の種類は膨大な数になり,自然界ではさまざまな形で薄膜を形成し,動物や植物となって生命が誕生している。それらの自然の営みに学んで,人間は有機薄膜の形成技術を進展させ,人工的にある種の機能を持ったデバイスを形成している。
 有機材料を用いた電子・光デバイスの特徴は半導体にはない有機材料の特徴を利用した成膜技術により薄膜を形成し,有機材料の特徴を活かしたデバイスが作製できる点にある。有機薄膜の形成方法には大きく分けるとドライプロセスと呼ばれる,真空中で有機材料を気体状態にして,基板上に堆積させ成膜する真空プロセスと,ウエットプロセスと呼ばれる,溶媒に溶ける有機材料の性質を利用した溶液状態で成膜する方法がある。前者の特徴は,真空プロセスによる制御された薄膜の形成,異なる有機材料の積層構造を形成することの容易性などが挙げられ,後者の特徴は印刷技術による大面積のデバイス作製,有機材料独特の自己組織化による薄膜形成などがあり,有機材料の特徴を活かした薄膜の形成技術が研究開発されている。上記の分類に属さない摩擦転写法など固相での薄膜形成方法を含むが,本書ではウエットプロセスの項に含めている。有機薄膜作製の方法は成膜方法の発展とともに,それに適した材料の開発により薄膜の作製技術が進歩している。
 本書は近年活発化する有機バイスとして,その代表例として有機EL有機太陽電池をはじめとする光デバイスの作製に用いられる薄膜作製技術と有機トランジスタ,センサーなどの電子デバイスの作製に用いられる薄膜作製技術を取り上げ,薄膜形成法として,大きくドライプロセスとウエットプロセスに分けてデバイス作製の例を紹介する。さらに,薄膜の評価技術,有機材料の薄膜作製の特性などを含めた「有機薄膜作製技術」の最新技術を紹介する。

(「はじめに」より)

2008年1月  大阪大学 大森裕

書籍の内容
第1章 有機薄膜技術総論(大森裕)
1. はじめに
2. 有機薄膜の作製法
  2.1 ドライプロセスによる薄膜作製法
  2.2 ウエットプロセスによる薄膜作製法
3. 有機バイス作製への適用例
  3.1 ドライプロセスによる有機バイスの作製
  3.2 ウエットプロセスによる有機バイスの作製
4. まとめ

第2章 ドライプロセスによる薄膜形成技術とデバイス応用 
1. 真空蒸着法を利用した有機EL素子作成(森竜雄)
  1.1 真空蒸着法とは
  1.2 真空蒸着法の特徴と制御パラメータ
  1.3 共蒸着
  1.4 まとめ
2. 蒸着法による有機トランジスタの作製と評価(工藤一浩,中村雅一)
  2.1 はじめに
  2.2 真空蒸着法による有機トランジスタの作製
  2.3 有機トランジスタ特性の評価技術
    2.3.1 トランジスタ特性に与える要因と評価法
    2.3.2 その場電界効果測定
    2.3.3 四探針電界効果測定
    2.3.4 熱刺激電流測定
    2.3.5 AFMポテンショメトリによる動作時電位分布評価
  2.4 おわりに
3. 物理蒸着法による有機EL作製(臼井博明)
  3.1 はじめに
  3.2 物理蒸着による高分子薄膜形成
    3.2.1 蒸着重合法
    3.2.2 有機EL用蒸着重合膜
  3.3 蒸着重合法による有機ELバイスの作製
    3.3.1 電子アシスト重合によるTPD正孔輸送層の作製
    3.3.2 熱重合による燐光発光素子の作製
    3.3.3 表面開始蒸着重合による電極界面制御
  3.4 おわりに
4. 蒸着重合法による有機薄膜の作製と高分子ELへの応用(板橋敦,村田英幸)
  4.1 はじめに
  4.2 蒸着重合法によるπ共役系高分子薄膜の作製
  4.3 蛍光性ポリアゾメチン薄膜の作製
    4.3.1 赤外吸収スペクトルを用いた重合反応の確認
    4.3.2 蒸着重合方法の違いによる成膜温度依存性
  4.4 ポリアゾメチン薄膜の光学的性質と共役連鎖長
  4.5 有機EL素子への応用
    4.5.1 PAM薄膜を発光層に用いた有機EL素子
    4.5.2 PAM薄膜をETLに用いた有機EL素子
  4.6 まとめ
5. エレクトロスプレー法による有機薄膜の作製とデバイス応用(臼井博明)
  5.1 はじめに
  5.2 エレクトロスプレー法
  5.3 PEDOT/PSSのエレクトロスプレー
    5.3.1 スプレー液の調整
    5.3.2 膜のモフォロジー
    5.3.3 スプレー電圧極性の影響
    5.3.4 膜の電気化学的特性
  5.4 おわりに
6. ドライプロセスによって作製される有機薄膜太陽電池の構造と機能(松村道雄,大佐々崇宏)
  6.1 はじめに
  6.2 基本構造を有する有機薄膜太陽電池
  6.3 高効率化に向けたアプローチ
    6.3.1 バルクへテロ構造の低分子系素子への導入
    6.3.2 スタック型構造
    6.3.3 多層化による機能分離
    6.3.4 新規へテロ構造の形成
  6.4 おわりに
7. 分子袋小路の概念と有機増幅型光センサー(平本昌宏)
  7.1 はじめに
  7.2 光電流増倍現象の発見
  7.3 増倍時の有機/金属界面のエネルギー構造
  7.4 構造トラップモデル―有機/金属界面の構造の想像による推定
  7.5 分子袋小路―有機/金属界面の実在の構造
  7.6 分子袋小路の概念の証明
  7.7 まとめ

第3章 ウェットプロセスによる薄膜形成技術とデバイス応用
1. スピンコート法による有機EL作製(梶井博武)
2. スピンコート法による有機トランジスタ作製(市川結)
  2.1 はじめに
  2.2 高分子半導体材料
  2.3 スピンコートによる薄膜トランジスタ作製
  2.4 P3HTトランジスタ作製における調整溶液が与える影響
  2.5 まとめ
3. インクジェット法による有機EL作製(中茂樹,岡田裕之)
  3.1 はじめに
  3.2 自己整合プロセスの概要
  3.3 自己整合IJPマルチカラー有機EL素子
  3.4 自己整合マルチファンクションダイオード
  3.5 まとめ
4. ウェットプロセスによる有機薄膜太陽電池の作製(藤井彰彦)
  4.1 はじめに
  4.2 ウェットプロセスによる薄膜形成法
  4.3 有機へテロ接合とバルクヘテロ接合
  4.4 相互浸透型へテロ接合
  4.5 スプレー法による有機薄膜の作成例
  4.6 おわりに
5. 印刷法で作製する色素増感太陽電池(池上和志,宮坂力)
  5.1 はじめに
  5.2 プラスチック色素増感太陽電池
  5.3 低温成膜に用いる塗布用酸化チタンペーストの開発
  5.4 塗布法による対極フィルムの作製
  5.5 塗布法で設置可能な電解質―固体化へのアプローチ―
  5.6 低温成膜酸化チタンペーストを使って作製したDSCモジュールの特性評価 
  5.7 おわりに
6. 疎水性共役高分子の単分子膜およびLangmuir-Blodgett集積膜の形成(永野修作,関隆広)
  6.1 はじめに
  6.2 長鎖脂肪酸との共展開による疎水性高分子の水面展開
  6.3 両親媒性高分子との共展開による疎水性共役高分子の水面展開
  6.4 液晶分子との共展開による疎水性高分子の広がった単分子膜形成と多層集積膜
    6.4.1 疎水性ポリシランの広がった単分子膜形成とその多層集積膜
    6.4.2 疎水性π共役高分子の広がった単分子膜形成とその多層集積膜
  6.5 おわりに
7. 自己組織化膜作製法と単分子・有機バイオデバイスなどへの応用(石田敬雄)
  7.1 はじめに
  7.2 自己組織化膜(SAM)概論
  7.3 様々なSAMの作製法と基礎物性
    7.3.1 SAMの作製法
    7.3.2 金属上への有機硫黄化合物や類する化合物によるSAM形成と基礎物性
    7.3.3 有機シラン化剤などからのシリコン基板上へのSAM形成と基礎物性
    7.3.4 カルボン酸,フォスホン酸などからの金属酸化物,シリコン酸化物上へのSAM形成
  7.4 SAMの有機分子デバイス・バイオデバイスへの応用
    7.4.1 SAMの期待される応用分野
    7.4.2 SPM,ナノ電極での導電性測定や分子メモリー,分子トランジスタへの応用
8. 高分子摩擦転写技術による有機ELの作製(谷垣宣孝)
  8.1 はじめに
  8.2 摩擦転写法
  8.3 偏光EL
  8.4 摩擦転写法による偏光EL
    8.4.1 摩擦転写膜による配向誘起による偏光EL
    8.4.2 ポリフルオレンの摩擦転写
    8.4.3 摩擦転写ポリフルオレンを用いた偏光EL
  8.5 おわりに
9. 摩擦転写法による分子配列制御有機薄膜の作製とデバイスへの応用(上田裕清)
  9.1 はじめに
  9.2 PTFE摩擦転写膜の作成とその構造
  9.3 PTFE摩擦転写膜上の有機分子の構造と機能
    9.3.1 鎖状分子
    9.3.2 平面状分子
  9.4 おわりに
10. 感性ナノバイオセンサー(都甲潔)
  10.1 はじめに
  10.2 味覚センサーに用いている脂質/高分子膜
  10.3 センサーの基本味応答
  10.4 食品の味
  10.5 バーチャルテイスト
  10.6 ポータブル味覚センサー
  10.7 表面分極制御法を用いたにおいセンサー
  10.8 においの多次元模型
  10.9 展望

第4章 薄膜形成評価
1. 水晶振動子を用いた薄膜評価(久保野敦史)
  1.1 はじめに
  1.2 水晶振動子式マイクロバランス(QCM)  
    1.2.1 原理
    1.2.2 膜厚モニターとしての利用と注意点
    1.2.3 その他の応用例
  1.3 薄膜形成初期過程
    1.3.1 有機物の薄膜形成観察
    1.3.2 単分子層の形成と層状成長
    1.3.3 化学吸着と物理吸着
  1.4 薄膜形成パラメータ
    1.4.1 平均滞在時間と吸着エネルギー
    1.4.2 飽和蒸気圧と昇華エネルギー
  1.5 おわりに
2. MDCとSHGによる評価(岩本光正)
  2.1 まえがき
  2.2 分子集合と配向オーダパラメータ
  2.3 界面膜の誘電分極とMDC・SHG
  2.4 界面分子膜の誘電分極の評価装置
  2.5 オーダパラメータとSHG
  2.6 まとめ
3. 薄膜・界面の電子構造評価(関一彦,金井要)
  3.1 はじめに
  3.2 薄膜の電子構造
  3.3 界面における電気二重層形成とバンドの曲がり
  3.4 薄膜・界面の電子構造の決定法
    3.4.1 紫外光電子分光法(UPS)と準安定励起原子電子分光(MAES)
    3.4.2 光電子収量分光(PYS)
    3.4.3 逆光電子分光法(IPES)
    3.4.4 ケルビン
    3.4.5 SPMを用いた諸手法
    3.4.6 その他の諸手法
4. 表面プラズモンによる評価(加藤景三)
5. 赤外分光法による有機薄膜の配向解析(古川行夫,細井宜伸)
  5.1 はじめに
  5.2 有機薄膜の反射吸収測定
  5.3 有機薄膜の透過吸収測定
6. NMRによる評価(杉村明彦)

第5章 新しい薄膜形成材料
1. アモルファス分子材料(景山弘,城田靖彦)
  1.1 はじめに
  1.2 アモルファス分子材料の分子設計
  1.3 最近の報告例
    1.3.1 TDATA系
    1.3.2 トリス(オリゴアリレニル)アミン系
    1.3.3 トリアリールボラン系
    1.3.4 末端がジアリールアミノ基あるいはトリアリールアミノ基でキャップされたπ電子系
    1.3.5 末端がジメシチルボリル基でキャップされたπ電子系
    1.3.6 スピロ化合物
    1.3.7 テトラアリールメタン・テトラアリールシラン
    1.3.8 トルクセン誘導体
    1.3.9 テトラ・ペンタ・ヘキサアリールベンゼン
    1.3.10 2,2'-ビアリールビフェニル
  1.4 おわりに
2. 有機溶媒に可溶な炭素材料(伊東栄次)
  2.1 はじめに
  2.2 可溶性フラーレンとその応用
  2.3 カーボンナノチューブの可溶化
    2.3.1 可溶性分子の吸着によるナノチューブの可溶化方法 
    2.3.2 共有結合によるナノチューブの可溶化方法
  2.4 おわりに
3. 有機溶媒に可溶な低分子系有機半導体材料(南方尚)
  3.1 はじめに
  3.2 誘導体
    3.2.1 チオフェン系オリゴマー誘導体
    3.2.2 縮合多環芳香族誘導体
    3.2.3 縮合多環芳香族プリカーサ
  3.3 直接塗布
  3.4 まとめ
4. 有機非線形光学材料(岡田修司)
  4.1 はじめに
  4.2 結晶性化合物の薄膜
  4.3 電場配向薄膜
  4.4 配向制御積層薄膜
  4.5 おわりに
5. ポリイミドナノ粒子を用いた低誘電率絶縁膜(石坂孝之,笠井均,及川英俊)
  5.1 はじめに
  5.2 PIナノ粒子の作製
  5.3 PIナノ粒子の堆積による低誘電率絶縁膜の作製
    5.3.1 PIフィルムの多孔質化例
    5.3.2 PIナノ粒子の堆積膜化と誘電率評価
  5.4 PIナノ粒子の多孔質化
    5.4.1 多孔性PIナノ粒子の作製
    5.4.2 残留PAの評価
  5.5 おわりに