分子エレクトロニクスの基盤技術と将来展望

技術者・研究者向けの専門書籍紹介
分子エレクトロニクスの基盤技術と将来展望


発刊日 2009年1月 ISBN 978-4-88231-687-9
体 裁 B5判 319ページ

発刊にあたって
 エレクトロニクス分野は,新たな展開,イノベーションが求められ,「分子エレクトロニクス」への期待とその実現への要請はより加速して来ているように思われる。本書は,この「分子エレクトロニクス」分野における,基盤技術と現状・課題,無機系エレクトロニクスに比しての優位性・特徴,そして課題を国内でも最も精力的に追求している研究者による解説,論文を纏めたものである。

 歴史上,大きな変革時には,何らかの顕著な改変,イノベーションが伴うものである。エレクトロニクス分野でもまさに同様なことが起きるであろう。これまでのSiをベースにした無機半導体主体から,有機系材料への置き換え(有機エレクトロニクス),更にはそれ自体機能を有する分子を素材に,新たな機能発現機構,作成プロセスを要する「分子エレクトロニクス」はその一端を担うことになるであろう。その実現には,個々基盤技術・デバイスレベルでのイノベーションのみならず,種々要素の集積,学問・業界分野,推進方法や体制,そして産官学の融合・連携などの面でも一元的収束,コンバージェンスが必要となるであろう。まさに,これから我々は大いなる変革を目にし,体験していくことになるであろう。

(「はしがき」より抜粋)

2009年1月  編集者を代表して

京都大学教授 松重和美

書籍の内容
【第I部 分子エレクトロニクスの評価技術】
第1章 走査プローブ技術―分子エレクトロニクスを縁の下から支える走査プローブ顕微鏡―
(宮戸祐治,山田啓文,松重和美)
1. はじめに
2. 走査プローブ顕微鏡の基本構成
  2.1 走査トンネル顕微鏡

  2.2 原子間力顕微鏡

3. 原子間力顕微鏡による表面計測
  3.1 FM-AFMによる構造観察

  3.2 KFMによる表面電位計測

4. まとめと今後の展望
第2章 ナノ電極技術(和田恭雄)
1. はじめに
2. 初期の試み
  2.1 STM/導電性AFM

  2.2 SAM膜をはさむ縦型電極の作製

3. 1nm程度の微小ギャップ形成方法
  3.1 ブレークジャンクション

  3.2 エレクトロマイグレーションを利用した金細線の切断によるナノギャップの形成

  3.3 めっきによる幅広ギャップの埋め戻し法

4. マイクロマシン技術
5. 10nmナノギャップ電極作製技術
  5.1 電子線描画技術による微細加工技術を用いる方法

  5.2 収束イオン線(FIB)による配線切断法

  5.3 シリコンの異方性エッチングを利用する方法

6. 平坦化ナノ電極
  6.1 化学的機械研磨(CMP)による平坦化 6.2 貼り合わせ法による平坦化

7. 実用化に向けた電極構造の開発
第3章 単一光子計測技術(瀧口義浩)
1. はじめに
2. 光電効果
3. 波長感度特性と光検出材料
4. ポイント光子検出技術
  4.1 光電子増倍管

  4.2 半導体フォトダイオード

  4.3 ハイブリッド光電子検出器

  4.4 時間相関単一光子計数法

5. 2次元光子検出技術
  5.1 EBとEM型CCDカメラ

  5.2 インテリジェント・ビジョンシステム

  5.3 3管式冷却CCDカメラ

  5.4 分光計測

  5.5 ストリークカメラ法

6. 熱雑音による記号/雑音比への影響
7. おわりに
第4章 バイオ評価技術(鳥光慶一,島田明佳,古川由里子)
1. はじめに
2. バイオ評価法
  2.1 カプセル型内視鏡

  2.2 DNAチップ

  2.3 腫瘍マーカー

  2.4 マイクロタス・分子インプリンティング

  2.5 血液チップ

  2.6 プロテインチップ

  2.7 免疫染色

    2.7.1 蛍光抗体法

    2.7.2 酵素抗体法

3. 分子イメージング
  3.1 共焦点レーザー顕微鏡

    3.1.1 共焦点レーザー顕微鏡(Confocal Laser Microscopy)

    3.1.2 分光型共焦点レーザー顕微鏡

  3.2 表面プラズモン共鳴

  3.3 FRET

4. 1分子イメージング
  4.1 モータータンパクの解析

  4.2 原子間力顕微鏡による受容体タンパク質の可視化

5. 分子から細胞へ
  5.1 フローサイトメトリー(FCM)とセルソーティング

    5.1.1 フローサイトメトリー(FCM)

    5.1.2 セルソーター(自動細胞解析分取装置)

  5.2 導電性高分子多点微小電極

6. おわりに
【第II部 分子エレクトロニクスのプロセス技術】
第1章 分子設計理論
(笛野博之,田中一義)
1. はじめに
2. 分子ワイヤーの設計理論
3. 減衰定数
4. 電極と分子ワイヤーとの接続
5. 電極と接続アンカー接合の理論解析
6. 分子ドット
7. おわりに
第2章 分子ワイヤーの合成技術(杉浦健一)
1. はじめに
―分子エレクトロニクスの到達目標と分子ワイヤー

2. ワイヤー部の実例
  2.1 オリゴパラフェニレンOPP

    2.1.1 背景

    2.1.2 合成

    2.1.3 オリゴフェニレンOP類の分子構造

    2.1.4 PPPからの展開

  2.2 オリゴアセチレン

    2.2.1 背景

    2.2.2 オリゴアセチレンを単離するための分子設計

    2.2.3 ポリジアセチレン

3. 電極接合部位
4. おわりに
第3章 分子エレクトロニクスに関連する自己組織化膜技術とその評価,そしてその将来(石田敬雄,水谷亘)
1. はじめに
2. 自己組織化膜(SAM)概論
  2.1 自己組織化膜の基礎

  2.2 期待される応用分野

3. 代表的なSAM技術の現状と分子エレクトロニクスデバイスの関係
  3.1 SAMの作製法

  3.2 電極上への有機硫黄化合物や類する化合物のSAM形成

  3.3 有機シラン化剤などからのシリコン基板上へのSAM形成

  3.4 カルボン酸,フォスホン酸などからの金属酸化物,シリコン酸化物上へのSAM形成

4. おわりに
第4章 高信頼化技術(高尾正敏)
1. はじめに
  1.1 スペックと信頼性

  1.2 スペックの階層

2. 分子エレクトロニクスにおける信頼性確保
  2.1 課題の概観的整理

  2.2 想定されるデバイスの構成

  2.3 物質・材料の信頼性

  2.4 電極問題

    2.4.1 キャリア伝導機構の信頼性

    2.4.2 化学的安定性と信頼性

    2.4.3 機械的構造的安定性と信頼性

3. その他の課題
  3.1 接合部でのエネルギーバリヤー等について

  3.2 分子の形状・分子振動

  3.3 キャリアーの散乱の効果

4. 何が信頼性を決めるのか
5. 製造プロセスに起因する信頼性
6. 外部回路
7. 計算機シミュレーションと顕微可視化技術への期待
8. 信頼性確保のための開発マネージメント
第5章 DNA操作技術(工藤秀利,藤平正道)
1. はじめに
2. DNAの構造
3. DNAの自己組織化
4. DNAの金属化
5. DNA分子コーミング
6. 基板上に固定化されたDNAの応用
7. おわりに
【第III部 分子ナノ材料・デバイスの開発】
第1章 分子ワイヤ
(安蘇芳雄・家裕隆)
1. はじめに
2. 分子ワイヤの一般的合成法
3. オリゴチオフェン分子ワイヤの合成
4. オリゴチオフェン分子ワイヤの機能化と評価
5. おわりに
第2章 カーボンナノチューブトランジスタ(日浦英文,本郷廣生,石田真彦,二瓶史行,落合幸徳,多田哲也,金山敏彦)
1. はじめに
2. カーボンナノチューブの概要
3. カーボンナノチューブトランジスタ
4. カーボンナノチューブトランジスタの作製方法
5. カーボンナノチューブチャネルの位置・直径制御と方向制御
6. 電荷移動ドーピングによるpn伝導制御
7. おわりに
第3章 分子ドット(宇野英満)
1. はじめに
2. 分子ドット
  2.1 フラーレンカーボンナノチューブ

  2.2 オリゴ(フェニレンビニレン)

    ・オリゴ(フェニレンエチニレン)

  2.3 金属錯体化合物

3. おわりに
第4章 分子ダイオードおよび分子スイッチング木村俊作
1. 数nmの分子コンダクタンスについて
2. 分子ダイオードの研究
3. らせん形成ペプチドの整流性
4. らせん形成ペプチドの単分子観察
5. らせん形成ペプチドの分子コンダクタンス
6. 対称的にレドックス基を導入したらせん形成ペプチドのコンダクタンス
7. 対称的なセットアップでの単分子コンダクタンス測定
8. 分子スイッチング
9. 分子ダイポール工学
第5章 単一分子発光デバイス(伊藤彰浩,田中一義)
1. はじめに
2. 単一分子からの発光と単一分子ELデバイスの分子設計
  2.1 単一分子の分光学的検出

  2.2 単一分子ELデバイスの分子設計

3. 単一分子ELデバイスの報告例
  3.1 ナノギャップ電極間に発生した金属ナノクラスターからの単一分子EL

  3.2 単一カーボンナノチューブからなるアンバイポーラー型FETからの赤外EL

4. STM発光
5. おわりに
第6章 分子トランジスタ(谷口正輝,川合知二)
1. はじめに
2. 電極-分子-電極接合
  2.1 エレクトロマイグレーション破断接合

  2.2 STM破断接合

  2.3 機械的破断接合 2.4 自己破断接合

3. 分子トランジスタ
  3.1 分子トランジスタの動作原理

  3.2 バックゲート型トランジスタ

  3.3 電気化学トランジスタ

4. 局所加熱の問題
5. おわりに
第7章 有機薄膜/分子メモリとロジック応用(堀江聡,石田謙司,松重和美)
1. はじめに
2. 有機薄膜/分子スケールでのメモリおよびロジックの研究動向
3. 有機強誘電性メモリ
  3.1 薄膜トランジスタ有機強誘電性メモリ

  3.2 有機強誘電メモリの分子スケール展開

4. 有機強誘電体のロジック応用
5. おわりに
第8章 分子ナノデバイス新機能の理論的予言(塚田捷,田上勝規,光武邦寛)
1. はじめに
2. 架橋分子の量子伝導の特徴―コヒーレントな伝導と散逸的な伝導―
3. 非平衡系の密度汎関数
4. 原子細線の物性
5. 分子架橋系のコヒーレントな伝導
  5.1 共鳴トンネル効果

  5.2 リンケージ構造の効果

  5.3 分子内電流

6. 散逸的な伝導―分子振動との相互作用―
【第IV部 分子コンピュータに向けた開発の動き】
第1章 分子プロセッサーと分子コンピューター
(和田恭雄)
1. 情報デバイスの発展の歴史と新しいパラダイムの必要性
2. 単一分子情報処理デバイスの展望
  2.1 分子コンピューターの性能目標

  2.2 分子コンピューター用単一分子デバイス

  2.3 分子コンピューター実現へのマイルストーン

  2.4 単一分子情報蓄積デバイスの展望

  2.5 その他の単一分子デバイスの展望

  2.6 単一分子エレクトロニクスが可能にすること

第2章 量子コンピュータ(山崎巌)
1. はじめに
  1.1 分子デバイスと現行の電子デバイス

  1.2 量子コンピュータ

2. 量子コンピューティングの基本的な考え方
  2.1 計算機における基本素子の動作

  2.2 1qubit演算子のブラケット表示

  2.3 2qubitレジスターのベクトル表示とその演算 2.4 離散フーリエ変換のための2qubit演算子

3. 1qubitの回転演算
  3.1 分子二量体における励起子の往復運動に基づく回転演算

  3.2 実験による検証

4. 離散フーリエ変換
  4.1 量子演算アルゴリズムの一例

  4.2 離散フーリエ変換の演算シーケンス

5. 2qubitの量子制御NOT演算
  5.1 光誘起電子移動反応に基づく制御NOT演算素子

6. 量子コンピューティング素子の形態
  6.1 量子コンピューティング素子におけるコヒーレンスの問題

第3章 バイオコンピューター(川名明夫)
1. はじめに
2. バイオサイバネティックスからニューロコンピューターへ
3. 神経科学の進展とバイオコンピューター
4. 神経回路とコンピュータのインターフェイス
5. バイオコンピューターの展望
【第V部 分子ナノエレクトロニクスの将来(座談会)】
松重和美,田中一義,和田恭雄,笠原二郎