電子ペーパーの最新技術動向と応用展開

技術者・研究者向け技術書籍の紹介

電子ペーパーの最新技術動向と応用展開

刊行にあたって
 印刷技術は15世紀のグーテンベルクによる活版印刷の発明以降、5世紀余りにわたり情報蓄積・流布の主要手段として君臨し文明発展に寄与し続けてきたが、昨今の電気通信技術とディスプレイ技術の進化は印刷技術の座を次第に脅かしつつある。技術の点で言えば、現状の電子表示・記憶技術と通信技術は印刷物よりもはるかに効率的な情報蓄積・流布手段としての潜在能力を既に備えているが、実態としてはまだ印刷物の君臨を許している。これは印刷物が500年をかけて人間にとって快適なメディアとしての磨きをかけた状態なのに対して、例えばディスプレイ技術が人間にとって印刷物並の快適感を備えるに至っていないことにその原因を求めることができよう。
 電子ペーパーの概念は、どちらかと言えば動画を主体とするテレビ用技術に主眼を置きがちだったディスプレイ技術に対し、印刷技術との置き換えという目標を改めて明示し、印刷物よりもより便利で快適な情報蓄積・流布手段としての電子書籍などの普及に向けてのキー技術を提供しようとするものである。2000年頃から開発が本格化した電子ペーパー技術は、2010年の現在に至って米国を中心とする電子書籍の急速な普及傾向を生み出し、いよいよ印刷物との主役交代が視野に入る段階に入りつつあると考えられる。しかし一方で、少なくとも電子ペーパーの技術面でのプレーヤー(機関および担当者)は数が限られており、本格普及の段階に入るには参入プレーヤーがもっと増えてくることが必要と思われる。逆に言えば、電子技術にとって印刷ビジネスのマーケットがほとんど手つかずに放置されている現状は、多くの新規参入者を充分に潤せるだけの巨大な可能性を秘めた状態と言うこともできる。

 本書は、この10年で大きな進化をとげ、さらに進化を継続中の電子ペーパー技術の全体像を示すことを狙い、技術の点では表示そのものを担う「前面板技術」と表示のための駆動手段を提供する「背面板技術」に章を分けて各種技術を示すとともに最新トピックスについても紹介する。本書の後半では、電子書籍をはじめとする電子ペーパーの応用分野について各分野における検討や普及の状況について述べるとともに、国内外の企業動向および市場動向について現状を紹介した。
 本書が、新規参入を検討中の方々にも、すでに技術開発やビジネスの推進を進行中の方々にも、電子ペーパー技術における道しるべとして少しでも役立つものとなれば幸いである。

(「はじめに」より)

2011年3月 東海大学 面谷 信

書籍の内容

第1章 総論―電子ペーパーの開発動向および将来展望(面谷 信)
  1 はじめに
  2 電子ペーパーの定義・分類
  3 電子ペーパーの狙い・課題・技術動向概観
  4 電子ペーパー技術の開発経緯
   4.1 液晶技術との競争期
    4.1.1 松下電器における電気泳動方式の発明
    4.1.2 米国ゼロックスでのツイストボール方式の発明
   4.2 電子ペーパー胎動期
    4.2.1 メディアラボでの動き
    4.2.2 マイクロカプセル化による電気泳動方式のブレークスルー
   4.3 製品化への動き
    4.3.1 電気泳動表示方式
    4.3.2 電子粉流体表示方式
    4.3.3 コレステリック液晶
   4.4 本格ビジネスの立ち上がり
    4.4.1 電子書籍
    4.4.2 値札
  5 電子ペーパーの過去20年と未来20年
  6 むすび
第2章 要素技術動向―前面板
  1 電気泳動方式の発明の経緯(太田勲夫)
   1.1 電気泳動とのかかわり
   1.2 拡大投射型TV開発の行き詰まり
   1.3 EPIDの着想
   1.4 具現化の苦労
   1.5 特許出願・学会発表・展示会出展
   1.6 EPIDの商品化
   1.7 マトリクス表示
   1.8 テーマ中止宣告
   1.9 EPIDの進展
   1.10 EPIDへの期待
  2 電気泳動方式の現状(前田秀一)
   2.1 はじめに
   2.2 マイクロカプセル電気泳動方式の応用分野
   2.3 マイクロカプセル電気泳動方式の表示原理とその材料
   2.4 電気泳動方式の課題とその取り組み
    2.4.1 視認性
    2.4.2 メモリー
    2.4.3 フレキシビリティ
    2.4.4 応答性
    2.4.5 カラー化
   2.5 その他の電気泳動方式
   2.6 おわりに
  3 電子ペーパー技術 QR-LPD(R)(増田善友)
   3.1 はじめに
   3.2 電子粉流体を用いた電子ペーパー
    3.2.1 電子粉流体
    3.2.2 パネル構造と表示のしくみ
    3.2.3 パネル特性
   3.3 カラー化への取り組み
   3.4 フレキシブル化への取り組み
    3.4.1 実用的なパネル設計
    3.4.2 実用的な製法
    3.4.3 試作したカラーフレキシブル電子ペーパー
   3.5 今後取り組むべき技術開発
    3.5.1 電極材料
    3.5.2 パネル試作
   3.6 最後に
  4 ツイストボール方式(前田秀一)
   4.1 はじめに
   4.2 原理と製造法
   4.3 製造法
    4.3.1 ツイストボールシートの製法
    4.3.2 回転粒子の製法
   4.4 粒子回転の理論
   4.5 円筒形の検討
   4.6 磁力回転の検討
   4.7 課題と展望
  5 エレクトロクロミック方式(小林範久)
   5.1 はじめに
   5.2 エレクトロクロミズム(EC)の特徴と応用展開
   5.3 エレクトロクロミック特性を示す材料
    5.3.1 金属酸化物系
    5.3.2 有機化合物系
    5.3.3 電解析出
   5.4 カラー電子ペーパーに向けた開発動向
   5.5 おわりに
  6 サーマルリライタブル方式(堀田吉彦)
   6.1 はじめに
   6.2 サーマルリライタブル記録の開発の歴史と経緯
   6.3 高分子/長鎖低分子分散型サーマルリライタブル記録
   6.4 ロイコ染料/長鎖顕色剤型サーマルリライタブル記録
   6.5 サーマルリライタブル記録の今後の動向
   6.6 課題と展望
第3章 要素技術動向―背面板
  1 駆動技術(回路・製法・フレキシブル化)(小松友子)
   1.1 電子ペーパー駆動の基本原理
   1.2 駆動技術の分類
    1.2.1 パッシブマトリックス駆動方式
    1.2.2 アクティブマトリックス駆動方式
   1.3 アクティブマトリックス製造方法
   1.4 モジュール化技術
   1.5 駆動回路のフレキシブル化
  2 高速書き換え技術(小松友子)
   2.1 電気泳動表示装置の駆動
    2.1.1 画素回路
    2.1.2 複数フレームによる書き込み
    2.1.3 フィードスルー
    2.1.4 残像処理と高速な書き換え
    2.1.5 EPD専用コントローラーIC
   2.2 エレクトロウェッティング方式の駆動
   2.3 粉体移動方式の駆動
   2.4 コレステリック液晶の駆動
  3 有機TFT(前田博己)
   3.1 はじめに
   3.2 有機TFTの印刷形成
   3.3 有機TFTの信頼性
   3.4 プラスチック基材の寸法制御
   3.5 印刷有機TFTによる電子ペーパーの駆動
   3.6 おわりに
第4章 最新トピックス
  1 ハイブリッドポリマーの相乗機能を利用したカラー化(樋口昌芳)
   1.1 電子ペーパーのカラー化
   1.2 有機/金属ハイブリッドポリマー
   1.3 エレクトロクロミック特性
   1.4 固体デバイス
   1.5 おわりに
  2 マイクロコンタクト印刷法による有機TFT回路作製(八瀬清志)
   2.1 はじめに
   2.2 マイクロコンタクト印刷法
   2.3 今後の発展と課題
  3 ナノ粒子インクを用いたエレクトロクロミック表示(川本 徹)
   3.1 エレクトロクロミック素子(ECD)
   3.2 錯体ECナノ粒子インクの合成
   3.3 錯体インクを利用したECD
    3.3.1 ECDの基本構造
    3.3.2 柄切替ディスプレイ
    3.3.3 青―白色可変画素
第5章 応用
  1 新聞コンテンツの電子ペーパーの応用例(小野寺尚希)
   1.1 はじめに
   1.2 iRex Technologies(アイレックス テクノロジー)社の電子ペーパー端末「iLiad(イリアド)」を使った実証実験
   1.3 ブリヂストン社の電子ペーパーを使ったサイネージ実証実験例
   1.4 商用の電子ペーパー端末向けの新聞コンテンツ配信の例
   1.5 大河原町1市2町保健医療組合 ユビキタスタウン構想推進事業での電子ペーパー端末・サイネージ採用事例
  2 電子雑誌の現状と今後の展開(伊藤正裕
   2.1 書籍電子化との違い
   2.2 電子音楽と電子雑誌
   2.3 日本での「iPad
   2.4 「iPad」の使われ方
   2.5 多機能端末の優位性
   2.6 ビジネスとしての電子雑誌の現状と将来
   2.7 成功する次世代メディア
   2.8 まとめ
  3 汎用リーダー・ライター(宝迫尚行)
  4 電子ペーパーの利用―電子値札(ESL)―(水川繁光)
   4.1 概要
   4.2 電子値札(DM-ESL)システム
    4.2.1 システム構成
    4.2.2 ネットワークの論理構造
    4.2.3 システムの動作
   4.3 システムの構成要素
    4.3.1 ESLサーバ
    4.3.2 ベースステーション
    4.3.3 トランシーバ
    4.3.4 フロントエンドLAN
    4.3.5 バックボーンLAN
    4.3.6 インフラストラクチャ
    4.3.7 セルとサブセル
    4.3.8 DM-ESL
    4.3.9 表示更新データのチャート
   4.4 変調方式
    4.4.1 通信速度と変調方式
    4.4.2 IR無線インタフェース
   4.5 導入効果
   4.6 電子棚札の変遷
   4.7 考察―電子ペーパーを利用したDM-ESLなどの表示システムの展望―
  5 電子書籍,サイネージなどその他の応用(檀上英利)
   5.1 はじめに
   5.2 電子書籍への応用
   5.3 デジタルサイネージへの応用
   5.4 携帯電話分野での応用
   5.5 時計分野での応用
   5.6 その他の応用
第6章 国内外企業・市場動向
  1 海外動向(鈴木 明)
   1.1 最近3年間のSID動向
   1.2 米国動向
    1.2.1 E-Ink
    1.2.2 Kent Group
    1.2.3 その他
   1.3 欧州(英国含)動向
    1.3.1 Liquavista(蘭)
    1.3.2 iRex(蘭)
    1.3.3 Polymer Vision(蘭)
    1.3.4 Plastic Logic(英)
   1.4 アジア
    1.4.1 Samsung(韓)
    1.4.2 LG Display(韓)
    1.4.3 PVI→EIH(台)
    1.4.4 その他
  2 国内動向(シーエムシー出版編集部)
   2.1 概要
   2.2 市場動向
   2.3 電子ペーパーメーカーの動向
    2.3.1 粒子移動型電子ペーパー
    2.3.2 コレステリック液晶電子ペーパー
    2.3.3 その他メーカーの動向
   2.4 電子ペーパーの応用(アプリケーション)市場の動向
    2.4.1 電子書籍
    2.4.2 電子ペーパーサイネージ市場
    2.4.3 その他の応用市場