フォトニックナノ構造の最近の進展

研究者向け科学技術書籍のご紹介

フォトニックナノ構造の最近の進展

監 修 野田進
発刊日 2011年3月 ISBN978-4-7813-0205-8
体 裁 B5判,276頁


刊行にあたって
 21世紀は,光の時代といわれている。無尽蔵にある太陽エネルギーの利用,光の超高速性を活かした新しい通信・情報処理,超高効率発光デバイス・固体照明,さらには量子情報処理に至るまで,光が担う役割はますます重要となっている。このような光を自在に制御する概念を構築し,活用していくことは極めて重要といえる。
 本書は,「フォトニック結晶」,「メタマテリアル」,「プラズモニクス」などをキーワードとするフォトニックナノ構造により,光を自在に制御し,応用していく最近の試みと将来展望をまとめたものである。
 まず,第1編では,フォトニック結晶およびメタマテリアルの近年の進展状況について,それぞれ概観し,続く第2〜6編の橋渡しの役割も果たしている。両分野とも近年著しい進展を示していることを感じ取っていただければ幸いである。
 第2編では,近年の光分野の大きなトピックスの1つである,光を減速する,あるいは止める,すなわちスローライト,ストップライトに焦点を当て,その現状を解説する。特に,フォトニック結晶ナノ共振器やナノ導波路を用いて,光の操作の最新動向を記述している。第3編では,量子情報,量子通信への応用を睨んだナノフォトニクスの進展について記述されている。単一光子光源の進展,ナノ共振器電磁力学,さらには,ナノ共振器特有の新規な発光現象,また,光メディアと電子メディアの情報変換などの興味深い内容が記述されている。
 第4編では,固体照明の一層の進展・高度化に向けて,窒化物半導体ナノ構造の制御による高効率発光制御やプラズモン効果,フォトニック結晶効果による光取り出し効率増大の試みが記述されている。第5編では,フォトニック結晶を活用した,大面積コヒーレント発振可能な全く新しい概念の半導体レーザの進展や,さらには,熱光発電による超高効率太陽発電の最近の動向についての記述がなされている。第6編では,フォトニック結晶やプラズモンを活用した新しいセンサー応用,さらには,メタマテリアルを活用した超分解現象についての最近の進展が記載されている。
 以上,フォトニックナノ構造を活用した,様々なナノサイエンス,新しい応用,産業展開の一端が垣間見られるような構成になっており,きっと満足いただけるものと自負している。

「はじめに」より
野田 進



書籍の内容

第1編 総論

第1章フォトニック結晶の進展
                                            (野田 進)
1 まえがき
2 バンドギャップ・欠陥エンジニアリング
  2.1 2次元フォトニック結晶スラブ
    2.1.1 線・点複合欠陥系による光機能
    2.1.2 ヘテロ構造の導入とその効果
    2.1.3 高Qナノ共振器とその応用
    2.1.4 非線形機能,アクティブ機能の導入
  2.2 3次元フォトニック結晶
    2.2.1 3次元フォトニック結晶作製技術の現状
    2.2.2 自然放出制御
    2.2.3 光伝搬制御
3 バンド端エンジニアリング
  3.1 バンド端における共振作用の概要
  3.2 2次元フォトニック結晶レーザの大面積コヒーレント動作
  3.3 格子点制御とモード制御
4 バンドエンジニアリング
  4.1 群速度制御
  4.2 光伝搬角制御
5 まとめ

第2章PhotonicMetamaterialsandApplicationExamples
                                            (KamilBoratayAlici,AndriyE.Serebryannikov,EkmelOzbay)
1 Abstract
2 Introduction
3 Methodology
  3.1 DesignSimulations
  3.2 Nano-Fabrication
  3.3 Experiment
4 ResultsandDiscussions
  4.1 Polarizationdependenttransmissionresponse
  4.2 Tunabilityviaabufferlayer
  4.3 Densityofsplitringresonators
  4.4 Shiftofmagneticresonancefrequency
  4.5 Metalpropertiesandresonanceproperties
5 Aconfigurationforenhancement
6 Anabsorberforsolarcellefficiency
7 Conclusion


第2編 SlowLight,StoppingLight

第3章フォトニック結晶ナノ共振器の進展
1 フォトニックナノ共振器の進展(浅野 卓,野田 進)
  1.1 はじめに
  1.2 包絡線関数制御によるQ値増大の原理
  1.3 格子点シフト導入による共振器の改良
  1.4 ヘテロ構造型共振器
  1.5 まとめ

2 Q値の動的制御とストッピングライト(田中良典,野田 進)
  2.1 はじめに
  2.2 共振器Q値の動的制御とストッピングライト
  2.3 光パルスの捕獲の実験的検証
  2.4 まとめ

3 結合共振器とスローライト(納富雅也)
  3.1 スローライトについて
  3.2 共振器を用いたスローライト
  3.3 フォトニック結晶ナノ共振器によるスローライト
  3.4 大規模ナノ共振器アレイによるスローライト
  3.5 まとめ

第4章 フォトニック結晶導波路とスローライト
1 概要(馬場俊彦)
  1.1 はじめに
  1.2 様々な構造
  1.3 フォトニック結晶スラブ線欠陥導波路とバンド特性
  1.4 製作と光伝搬特性
  1.5 曲げ構造,接続構造
  1.6 まとめ

2 スローライトと光バッファー応用(馬場俊彦)
  2.1 はじめに
  2.2 スローライトへの期待
  2.3 スローライトの原理と性質
  2.4 広帯域で分散のないスローライト
  2.5 チャープ制御による可変スローライト
  2.6 まとめ

3 Dispersionengineeringinphotoniccrystalwaveguides(ThomasFKrauss)
  3.1 Introduction
  3.2 Materialdispersion
  3.3 Structuraldispersion
  3.4 Groupvelocitydispersion:Motivationforflatbandslowlight
  3.5 Dispersioncurveanticrossing:akeytool
  3.6 Dispersionengineering
  3.7 Example1:Mach-Zehndermodulator
  3.8 Example2:Directionalcoupler
  3.9 Conclusion

4 Slowlightenhancednonlinearopticsinsiliconphotoniccrystalwaveguides(ChristelleMonat,BenjaminJ.Eggleton)
  4.1 Introduction
  4.2 Enhancingthenonlinearopticalresponseinwaveguides
  4.3 ModellingnonlinearphenomenainslowlightPhCwaveguides
  4.4 LowdispersionslowlightPhCwaveguides
  4.5 SelfPhaseModulationexperiments
  4.6 ThirdHarmonicGenerationexperiments
  4.7 Conclusion


第3編 量子情報,量子通信

第5章 単一光子源開発の進展
                                            (竹本一矢)
1 はじめに
2 単一光子源の種類
3 オンデマンド型単一光子源
4 半導体量子ドット単一光子源
5 電流注入型量子ドット単一光子源
6 まとめ―単一光子源実用化に向けて

第6章 フォトニックナノ構造における共振器量子電気力学の進展
                                            (岩本 敏,荒川泰彦)
1 はじめに
2 共振器量子電気力学の基礎〜弱結合と強結合〜
3 フォトニック結晶ナノ共振器と量子ドット融合系における強結合状態の実現
4 弱結合状態の応用〜単一量子ドットレーザの実現〜
5 まとめ

第7章 フォトニックナノ構造と量子ナノ構造の特異な物理現象
                                            (浅野 卓,野田 進)
1 はじめに
2 理論計算モデルおよび計算結果
3 まとめ

第8章 光子と電子の量子メディア変換
                                            (小坂英男)
1 はじめに
2 光子と電子の量子メディア変換に関する基礎知識
  2.1 光電変換と量子メディア変換
  2.2 電子と正孔の量子もつれ
  2.3 光子と電子のスピン状態表現
3 光子から電子スピンへの状態転写
  3.1 エネルギー保存
  3.2 量子位相保存
  3.3 スピン状態転写の実験
4 電子スピン状態トモグラフィ
  4.1 トモグラフィ
  4.2 トモグラフィックカー回転
  4.3 スピン状態トモグラフィの実験
5 量子メディア変換デバイスと量子中継応用
6 まとめと今後の展望


第4編 超高効率発光の開発,固体照明へ向けて

第9章 窒化物ナノ構造の進展
                                            (川上養一)
1 はじめに
2 極性c面上InGaN/GaN量子井戸における再結合過程
3 半極性面上InGaN/GaN量子井戸の物性とLED特性
4 おわりに

第10章 プラズモニクスの光デバイス応用
                                            (岡本晃一)
1 はじめに
2 固体発光素子の現状
3 表面プラズモン結合が及ぼす影響
4 プラズモニクスによる発光増強
5 表面プラズモン結合の機構
6 高効率プラズモニックLEDの可能性
7 プラズモニクスの高効率太陽電池への応用
8 おわりに

第11章 フォトニック結晶効果
                                            (冨士田誠之,野田 進)
1 はじめに
2 フォトニック結晶による発光制御の原理実証
3 窒化物半導体へのフォトニック結晶形成と発光特性
4 おわりに


第5編 新型発光デバイス,太陽電池

第12章 大面積コヒーレント・フォトニック結晶レーザ
                                            (大西 大,野田 進)
1 はじめに
2 フォトニック結晶レーザの構造
3 フォトニック結晶レーザの発振原理
4 フォトニック結晶レーザの特長
5 フォトニック結晶レーザの高出力化
6 アレイ高出力フォトニック結晶レーザ
7 まとめ

第13章 多様なビームパターンの発生とその応用
                                            (酒井恭輔,野田 進)
1 はじめに
2 フォトニック結晶構造の制御による多様なビームパターンの生成
3 方位偏光ドーナツ状ビームによる光ピンセット
4 径偏光ドーナツ状ビームによる微小集光
5 まとめ

第14章 Compressingsolarbandwidthusingnanophotonics-basedsolarthermophotovoltaicsystems
                                            (EdenRephaeli,ShanhuiFan)
1 Abstract
2 Introduction
3 AsimplemodelofthesolarTPVsystem
4 Analysisofintermediateefficiencyandabsorberdesign
  4.1 Intermediateefficiency
  4.2 Absorberdesign
5 Solarcellefficiencyandemitterdesign
  5.1 Solarcellefficiency
  5.2 Emitterdesignrequirements
  5.3 Emitterdesign
6 Systemefficiency
7 Conclusions


第6編 センシング,超分解

第15章 フォトニック結晶偏光センサ
                                            (川嶋貴之)
1 はじめに
2 面型フォトニック結晶
3 自己クローニング法
4 偏光子・波長板
  4.1 フォトニック結晶偏光子
  4.2 フォトニック結晶長板
  4.3 フォトニック結晶偏光素子の特徴
5 偏光イメージセンサ
  5.1 偏光子型偏光イメージセンサ
  5.2 波長板型偏光イメージセンサ
  5.3 複合型偏光イメージセンサ
6 偏光カメラ
7 位相差測定器
8 エリプソメータ
9 まとめ

第16章 プラズモンセンサーの現状
                                            (玉田 薫)
1 はじめに
2 伝搬型表面プラズモンセンサー
3 局在プラズモンセンサー
4 表面プラズモン増強蛍光測定
5 プラズモニック結晶型センサー

第17章 メタマテリアルによる超分解
                                            (北野正雄,中西俊博)
1 メタマテリアルによる負屈折と集光効果
2 回折限界と完全レンズ
  2.1 吸収および媒質パラメータの不完全性の影響
  2.2 完全レンズの実験的検証
3 負誘電率による完全レンズ
4 多層金属膜による完全レンズとハイパーレンズ
5 まとめ