窒化物基板および格子整合基板の成長とデバイス特性

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窒化物基板および格子整合基板の成長とデバイス特性


発刊日 2009年6月 ISBN978-4-7813-0133-4 C3054
体 裁 B5判,225頁

刊行にあたって
  2008年後半から続く世界全体を覆う金融危機の中,III族窒化物半導体を用いた発光ダイオード関連産業は真っ先に危機から回復し,特に液晶用バックライトとして急速な回復を示している。また,水銀などの有害な物質を含まず,10年以上買い替える必要のない長寿命白色発光ダイオードを用いた照明が,多くの消費者の注目を集めている。今後,発光ダイオード関連産業は,ますます拡大の一途をたどり,2020年には数兆円規模の市場が我が国に創生されるとの試算がなされている。同材料を用いたレーザダイオードに関しては,ブルーレイのような光記録用光源の生産拡大はもちろんのこと,最近では携帯電話並みの小型プロジェクションディスプレイや,三次元立体テレビの実現を目指し,ハイパワー純青色レーザダイオードに加え,ハイパワー純緑色レーザダイオードの開発も加速されている。電子デバイスに目を向けると,ハイパワーの必要な携帯電話の基地局用高周波高移動度トランジスタとしてすでに代替が進んでおり,将来は,家電のうち回転機を有する空調機,冷蔵庫,あるいはハイブリッド車や電気自動車のインバータ,ACアダプタの超小型化,電子レンジ,更には電力系統の大電力スイッチング素子としての開発が進んでいくであろう。更に同材料のバンドギャップはInNの0.65eV,すなわち赤外から,AlNの6.1eV,すなわち深紫外に至るまで,地球上における太陽光スペクトルのほぼ全域をカバーする。積層構造により,理論的には効率60%を超す太陽電池も実現可能である。
 これら,グリーンテクノロジーの最有力候補のデバイスを構成する材料は,InN-GaN-AlNおよびそれらの混晶半導体であるIII族窒化物半導体であり,その中心の材料がGaNである。現在のGaNは,ほとんど20年以上前の1986年に開発された低温バッファ層またはそれに類する薄膜バッファ層を用いて,サファイア基板,Si基板やSiC基板など格子不整合の大きい異種基板上に成長されたものである。この格子不整合異種基板上成長およびデバイス開発において,薄膜バッファ層はある程度の貢献をしたと思う。しかし,その膜を詳細に観察すると,1μm角に1個以上の高密度貫通転位が存在し,また,X線回折X線トポグラフでその構造を詳細に観察すると,配向性の非常にそろった微結晶の集合体であることが分かる。従って,現在使用されているデバイスは,結晶としては,いわば微結晶膜により構成されている。
 GaNを中心としたAlGaN,GaInNを用いて作製された白色発光ダイオードは,前述の通り,ますます市場規模を広げているが,大電流注入すると効率が低下してしまい輝度が上がらない,いわゆる効率ドループの問題に直面している。電子デバイスに関しても,オン抵抗と耐圧の関係をみると,同じオン抵抗に対して,耐圧は理論値の1/2〜1/3程度にとどまっている。これらの理由として考えられているのが,結晶学的な問題である。
 最近,以前より主流であった気相成長法に代わって,アンモノサーマル法やナトリウムフラックス法の開発が進み,貫通転位密度が1cm2に10,000個以下のGaN結晶も成長できるようになりつつある。微結晶膜から単結晶膜へ,時代の転換点に差し掛かりつつあるのかもしれない。
 この本では,従来の方法に加え,新しい成長法によるIII族窒化物単結晶の作製法,III族窒化物半導体に格子整合する基板用材料や,それらの基板を用いたデバイス試作の例を紹介している。今後,III族窒化物半導体を用いて,その真の物性的限界まで利用し,究極効率,究極性能のデバイスを普及させるには,これら単結晶作製技術の発展が不可欠であり,ここでは第一線で活躍している研究者が集い,最先端研究の現状を生き生きと伝えている。サステイナブル社会を構築するためのグリーンテクノロジーの基盤技術としてのIII族窒化物半導体開発の今を,是非ご覧ください。

(「巻頭言―微結晶膜から単結晶膜の時代へ―」より)


名城大学 理工学部  天野 浩


書籍の内容
第1章 バルクGaN単結晶の成長

1. 窒化ガリウムハイドライド気相成長(纐纈明伯,熊谷義直)
  1.1 はじめに
  1.2 GaNHVPE成長の熱力学解析
   1.2.1熱力学解析手法
   1.2.2 平衡分圧とGaN成長の駆動力
  1.3 GaAs(100)基板結晶上への閃亜鉛鉱型構造(立方晶)GaN成長
   1.3.1実験方法
   1.3.2 立方晶GaNHVPE成長
  1.4 (111)Aと(111)BGaAs基板上へのウルツ鉱型構造(六方晶)GaN成長の比較
   1.4.1実験方法
   1.4.2 (111)Aと(111)BGaAs基板上への六方晶GaN成長の比較
  1.5 GaAs(111)Aおよび(111)B面上へのGaN成長初期過程の第一原理計算
   1.5.1計算手法
   1.5.2 GaAs(111)AおよびGaAs(111)B上へのGaN成長の初期過程
  1.6 GaAs(111)A基板結晶上への厚膜GaNのHVPE成長
   1.6.1実験方法
   1.6.2 GaNのHVPE成長
  1.7 サファイアおよびGaAs基板上へのFeドープGaN成長
   1.7.1実験方法
   1.7.2 FeドープGaN成長

2. HVPE成長における低転位化技術(碓井彰)
  2.1 はじめに
  2.2 HVPE法
  2.3 GaN結晶における転位
  2.4 HVPE法による転位削減手法
   2.4.1ファセット面による転位の曲がり
   2.4.2 厚膜成長による転位削減
  2.5 おわりに

3. アモノサーマル法(安熱合成法)によるGaN単結晶作製(鏡谷勇二,福田承生)
  3.1 ソルボサーマル法/アモノサーマル法
  3.2 内外の開発状況
  3.3 鉱化剤
  3.4 酸性鉱化剤を用いたアモノサーマル法GaN作製技術開発
   3.4.1装置開発
  3.5 酸性鉱化剤を用いたアモノサーマル法によるGaN作製
  3.6 工業化への課題

4. ナトリウムを用いた窒化ガリウム単結晶の合成(山根久典,山田高広)
  4.1 はじめに
  4.2 NaN3を窒素源とする封管法での結晶育成
   4.2.1結晶育成実験
   4.2.2 析出形態とルツボ材
  4.3 N2ガス供給法による結晶育成
   4.3.1結晶作製容器
   4.3.2 結晶育成温度・圧力と反応収率および結晶形態
   4.3.3 加熱温度保持時間と結晶形態
   4.3.4 極性と結晶表面形態
   4.3.5 結晶の品質と特性
   4.3.6 添加元素の効果
  4.4 Na蒸気を利用した結晶育成
   4.4.1結晶作製
   4.4.2 加熱時間と融液組成・結晶形態
  4.5 結晶の成因・反応機構
   4.5.1NaとN2
   4.5.2 GaとN2
   4.5.3 Naの役割と溶解種
   4.5.4 融液組成と結晶生成
   4.5.5 融液組成と結晶形態
   4.5.6 Na融液中へのGaNの溶解量
   4.5.7 結晶成長の駆動力
  4.6 種結晶育成
   4.6.1N2ガス供給Na-Ga融液法
   4.6.2 Na蒸気利用法
  4.7 Li3Nを利用した結晶育成
   4.7.1Li3Nフラックス
   4.7.2 Li3N添加Naフラックスと温度勾配法
  4.8 c-GaNの生成
  4.9 おわりに

5. NaフラックスLPE法による大型高品質GaN結晶育成技術(森勇介,北岡康夫,川村史朗,今出完,吉村政志,佐々木孝友)
  5.1 はじめに
  5.2 Naフラックス法における結晶核発生制御技術
   5.2.1液相エピタキシャル成長による結晶核発生位置制御
   5.2.2 炭素添加による自然核発生制御
  5.3 溶液攪拌による溶液状態制御技術
  5.4 まとめと今後の展望

6. 炭素熱還元窒化法によるバルク体GaN結晶の成長とイオンドーピング(嶋田志郎,三浦章)
  6.1 緒言
   6.1.1バルク体GaN結晶の成長方法
6.  1.2 炭素熱還元窒化法(CarbothermalReductionandNitridation:CRN
  6.2 GaN結晶成長に及ぼす温度と時間の影響
  6.3 るつぼを使用したGaN結晶成長と特性評価
  6.4 連続原料供給によるGaN結晶成長とその特性評価
  6.5 イオンドープしたGaN:GeとGaN:Zn結晶の作製
6.  5.1 GaN:Ge結晶の作製
6.  5.2 GaN:Zn結晶の作製

7. MOVPE成長(天野浩)
  7.1 はじめに
  7.2 原料
  7.3 成長装置
  7.4 薄膜成長とデバイス
  7.5 今後の課題と展望

第2章 非極性基板とその上の成長
1. HVPE法による無極性面GaN成長(佐々木斉,碓井彰)
  1.1 はじめに
  1.2 a面GaNのHVPE成長
   1.2.1r面サファイア基板上への成長
   1.2.2 a面GaNの横方向成長
  1.3 m面GaNのHVPE成長
   1.3.1γ-LiAlO2基板上への成長
   1.3.2 m面GaNの横方向成長
   1.3.3 m面サファイア基板上への成長
  1.4 まとめ

2. 半極性面を利用したInGaN系量子井戸構造の作製とその光学特性(船戸充,川上養一)
  2.1 はじめに
  2.2 結晶成長手法の検討
  2.3 ファセット構造上のInGaN量子井戸
  2.4 半極性GaN基板上のInGaN量子井戸
  2.5 おわりに

3. r面サファイア上a面GaN成長(三宅秀人,宮川鈴衣奈)
  3.1 はじめに
  3.2 成長条件
  3.3 リアクタ圧力および成長温度依存性
  3.4 表面形態と反射率のその場観察
  3.5 むすび

4. m面SiC上への非極性窒化物半導体の結晶成長(岩谷素顕,川島毅士,飯田大輔,千田亮太,上山智,天野浩,赤粼勇)
  4.1 はじめに
  4.2 m面SiC上にAlNを介して成長させたGaNの高品質化と成長機構
  4.3 m面GaNの低転位・低積層欠陥化
  4.4 格子欠陥の異なる基板上に作製したLED
  4.5 まとめおよび今後の展開

第3章 GaN以外の基板
1. 昇華法によるAlN結晶成長(山本喜之,宮永倫正,中幡英章)
  1.1 AlNとは
  1.2 AlN単結晶の製法
  1.3 AlN昇華法の概要
  1.4 自発核成長によるAlN単結晶成長
  1.5 ヘテロ成長によるAlN単結晶成長
   1.5.1AlNヘテロ成長の検討
   1.5.2 AlN厚膜・高品質化の検討
  1.6 無極性面

2. 透明導電性基板としての酸化ガリウム単結晶(島村清史,E.A.GarciaVillora)
  2.1 酸化ガリウム
  2.2 結晶育成
  2.3 GaN系薄膜の結晶成長
  2.4 単結晶の大型化とLED化

3. ZrB2基板(天野浩)
  3.1 はじめに
  3.2 基板の前処理

4. 水熱合成法による酸化亜鉛単結晶の育成(福田承生)
  4.1 はじめに
  4.2 酸化亜鉛単結晶育成方法
   4.2.1概要
   4.2.2 育成条件
  4.3 育成された酸化亜鉛単結晶の品質
   4.3.1成長速度,育成領域の着色と不純物
   4.3.2 結晶性
   4.3.3 フォトルミネッセンス特性
   4.3.4 電気抵抗率
   4.3.5 ホール効果測定結果
  4.4 応用
  4.5 おわりに

5. PXD法を用いたZnO基板上への窒化物成長(小林篤,藤岡洋)
  5.1 格子整合基板ZnO
  5.2 パルス励起堆積法
  5.3 低温成長によるGaN/ZnO界面特性の制御
  5.4 高In組成InGaNの低温成長
  5.5 無極性面GaN成長への応用
  5.6 量産技術への展望
  5.7 むすび

第4章 LED応用
1. GaN基板LED(亀井英徳)
  1.1 はじめに
  1.2 フリップチップ構造による光取り出し
  1.3 GaN基板LED構造
  1.4 青色LED特性
  1.5 白色LED特性
  1.6 緑色LED特性
  1.7 おわりに

2. ZnSe白色発光LED(中村孝夫)
  2.1 はじめに
  2.2 ZnSe白色LEDの原理
  2.3 ZnSe白色LEDの特長と寿命特性
  2.4 ZnSe白色LED劣化現象
  2.5 クラッド構造と寿命特性
  2.6 おわりに

3. AlN遠紫外発光ダイオード(牧本俊樹)
  3.1 紫外光源の特徴
  3.2 高品質AlN結晶のエピタキシャル成長
  3.3 AlN結晶の光学特性
  3.4 AlN結晶への不純物ドーピング特性
  3.5 AlN遠紫外発光ダイオードの特性
  3.6 遠紫外発光ダイオードの今後の展望