新規素材探索―医薬品リード化合物・食品素材を求めて―

技術者・研究者向けの専門書籍紹介

新規素材探索―医薬品リード化合物・食品素材を求めて―

発刊日 2008年9月 ISBN 978-4-7813-0042-9
体 裁 B5判 313ページ


発刊にあたって
 新規物質の発見は,いずれの分野であるかを問わず新しい自然科学の揺籃には不可欠であり,例えば1825年のファラデーによるベンゼンの発見,1985年のスモーリー,クロトーらによるフラーレンの発見等が思い起こされます。近年の農薬,医薬の開発は人類あるいは地球上の生き物すべての健全な生存・活動の保障に大きく貢献してきましたが,これを物質としての概念から考えると,ここでも新規物質の発見が生命現象の理解を飛躍的に発展させてきたことに異論はありません。とは言うものの,限られた化合物資源と限られた生物試験法ゆえに,今では新規物質の探索は以前にも増して難しくなってきていると言えます。一方,この分野での多大な研究蓄積に加えて30億塩基対からなるヒトの遺伝子が解明された今日,いわゆるポストゲノムに継ぐ研究の方向性が盛んに議論されています。ケミカルゲノミクス,プロテオミクス,メタボロミクスと言った分野も立ち上がってきました。このような時流の下,今こそ新規物質の探索研究(Exploratory Research)はその重要性を再認識した上で,オリジナリティーの高い研究分野として広く認知されるべき時であると信じてやみません。
 私たちの環境は絶えず変化し,科学者に対する社会の要請もより高度に,かつ緊急度を増していると考えます。新しいタイプの感染症の蔓延,人類の高年齢化とQOL(Quality of Life)確保,地球環境の急速な温暖化等が問題となっていますが,いずれも科学の力が中心となって解決すべきであることに違いはありません。本書では特に人類のQOLに関連した医薬リードの探索,健康食品の開発に従事する研究者が目指す新規物質の探索研究を紹介します。合成化学者やケミカルバイオロジー研究者も加わって,1.医薬品リード化合物の開発と合成,2.食品素材の開発,としてまとめてみました。最近のいわゆるHTS(High Throughput Screening)やRMD(Rational Molecular Design)とはひと味違う物質探索をご理解頂ければ幸いです。

(「はじめに」より)
2008年9月  慶應義塾大学理工学部 教授 上村大輔



書籍の内容

総論(辻智子)
1. はじめに
2. 医薬品と機能性食品の制度
3. 素材探索の考え方
  3.1 機能素材のソースについて

  3.2 伝承食品から素材探索

  3.3 スクリーニング法

4. 素材探索の今後の展望

【第I編 医薬品リード化合物の開発と合成
第1章 植物生理活性物質―最近の研究動向(中村和彦,上村大輔)
1. はじめに
2. シグナル伝達阻害物質シクロパミン
3. 植物ホルモン様低分子化合物
4. 植物由来アンジオテンシンII受容体拮抗物質
5. 植物プランクトン渦鞭毛藻由来の生理活性物質
6. おわりに
第2章 キノコ由来の生体機能物質(河岸洋和)
1. はじめに
2. ヒアルロナン分解制御物質
  2.1 ヒアルロナン分解抑制物質

  2.2 ヒアルロナン分解促進物質

3. 破骨細胞形成抑制物質
4. 抗MRSA物質
5. Na+,K+-ATPase阻害物質
6. 小胞体ストレス保護物質
7. おわりに
第3章 海洋生物を素材とする医薬シーズの探索(小林資正)
1. はじめに
2. 海洋生物成分の探索の動向
3. 海洋生物由来の有用物質
  3.1 EPADHA

  3.2 β-carotene

  3.3 alginic acid

  3.4 chitin,chitosan

  3.5 α-kainic acid

  3.6 spongourigine

  3.7 nereistoxin

  3.8 holotoxin A

  3.9 methopterosin

4. 海洋生物由来の医薬品資源
  4.1 ecteinascidin(ET-743)

  4.2 aplidine

  4.3 LU103739

  4.4 KRN7000

  4.5 cryptophycin

  4.6 Bryostatin 1

  4.7 IPL576,092

  4.8 squalamine lactate

  4.9 ziconotide(prialt)

  4.10 tetrodotoxin(tectin)

  4.11 E7389

5. 生物活性物質を生産する共生微生物の存在
6. 今後に向けて
第4章 合成化合物ライブラリーによるケミカルジェネティクス(山添紗有美,上杉志成)
1. はじめに
2. 合成化合物ライブラリー
3. クロメセプチンの発見
  3.1 クロメセプチンの標的タンパクの精製・同定

  3.2 標的タンパク質の同定法

  3.3 ビオチン化法

  3.4 釣竿法

  3.5 インドメタシンの第二の標的タンパク質

4. 有機合成転写因子
  4.1 DNA結合ドメイン

  4.2 転写活性化ドメイン

  4.3 活性化ドメインのタンパク質-タンパク質相互作用

  4.4 アダマノロールの発見

  4.5 レンチノロールの設計

  4.6 有機合成転写因子の設計

5. おわりに
第5章 特殊ペプチドの翻訳合成と薬剤探索(菅裕明,山岸祐介)
1. はじめに
2. 創薬における特殊ペプチドの位置づけ
3. 特殊ペプチド合成における翻訳系のメリット
4. 遺伝暗号のリプログラミング
5. フレキシザイムシステム
6. 翻訳で合成可能な特殊ペプチド
7. 特殊ペプチドライブラリーを用いた薬剤探索
8. おわりに
第6章 シグナル伝達阻害剤の単離,分子デザインと生物活性(梅澤一夫)
1. はじめに
2. 細胞内シグナル伝達
3. 生理活性物質の探索
  3.1 NF-κB阻害剤DHMEQの発見

  3.2 DHMEQによる破骨細胞分化の抑制

  3.3 DHMEQのin vivo抗炎症活性と抗癌活性

4. 9-メチルストレプチミドンのNF-κB阻害作用の発見
5. LPSを不活性化する新規物質ヘプタデプシンの発見
6. 血管内皮細胞増殖抑制物質の探索
7. おわりに
第7章 大規模タンパク質相互作用ネットワーク解析から展開するケミカルバイオロジー(夏目徹)
1. はじめに
2. タンパク質ネットワーク解析からの展開
3. 統一的なスクリーニングプラットフォームの構築は可能か?
4. 天然物化学の次世代化
5. おわりに:個別からの脱却
第8章 生体高分子の多面性の理解に向けたケミカルジェネティクス:新規素材探索とその活用(西村慎一,掛谷秀昭)
1. はじめに
2. 天然資源由来の生理活性小分子による生体高分子の多面的な機能の理解
  2.1 リボソームを標的とする生理活性小分子

  2.2 生理活性小分子によるリボソームの機能の差別化

  2.3 ケミカルジェネティクスによる超複合体の機能解析

3. おわりに
第9章 生物現象を可視化する分子プローブ開発によるケミカルバイオロジー研究(菊地和也)
1. はじめに
2. 酵素活性をin vivoで検出する19F-MRIプローブの開発
  2.1 プローブ開発の意義

  2.2 原理開発の着想点

  2.3 分子デザインと測定結果

3. おわりに
第10章 アンジオテンシンII受容体拮抗剤を目指して(仲建彦)
1. はじめに
2. レニン・アンジオテンシン系と阻害薬
3. ペプチド型アンジオテンシンII受容体拮抗薬
4. リード化合物ベンジルイミダゾール酢酸の発見
5. ロサルタンの発見
6. カンデサルタンの発見
7. カンデサルタンの化学構造と薬理学的特徴
8. カンデサルタンシレキセチルの創製
9. カンデサルタンシレキセチルの臨床試験
10. おわりに
第11章 新しい抗マラリア薬の開発研究(金惠淑,綿矢有佑)
1. はじめに
2. 日本での抗マラリア薬研究の進展状況とこれまでの研究成果
3. 新規抗マラリア環状過酸化化合物(N-89およびN-251)
4. おわりに
第12章 高血圧症治療薬としての直接的レニン阻害剤(横川文明)
1. はじめに
2. ペプチドミメティックレニン阻害剤
3. アリスキレン
4. ピペリジンレニン阻害剤
5. (ケト)ピペラジンレニン阻害剤
6. おわりに
  2.4-ジアミノピリミジンレニン阻害剤

7. おわりに
第13章 タンパク質リン酸化酵素阻害剤の開発と応用:展開するケミカルバイオロジー研究(萩原正敏)
1. はじめに:なぜタンパク質リン酸化酵素阻害剤が注目されるのか?
2. タンパク質リン酸化酵素阻害剤の結合部位と特異性
3. ATP結合部位を標的とした創薬
4. 主たるチロシンキナーゼ阻害
5. 主たるセリン/スレオニンキナーゼ阻害剤
6. 特異的なタンパク質リン酸化酵素阻害剤を用いたシグナル伝達パスウエイの解析
7. 特異的なタンパク質リン酸化酵素阻害剤の探索に向けて
8. 最後に:少しだけご注意を
第14章 バンコマイシン耐性の克服に向けた化学的アプローチ(有本博一)
1. 最後の抗生物質バンコマイシン
2. バンコマイシンの抗菌活性発現機構と耐性菌の現状
3. バンコマイシンの合成化学的研究
4. 医薬品志向のグリコペプチド
5. 化学修飾グリコペプチドがバンコマイシン耐性菌に効果を示すメカニズム
6. 生合成中間体との相互作用強化を目指して設計された化合物群
7. まとめ
第15章 医薬リードを目指す天然物の全合成(砂塚敏明)
1. はじめに
2. IL-6活性阻害剤マジンドリン類の発見
3. 絶対構造決定のためのマジンドリン類の全合成
4. マジンドリン類の実践的合成法の確立
5. マジンドリン類の合成と構造活性相関
6. マジンドリンの作用機作の解明と動物実験
7. おわりに
第16章 フェノール酸化を活用する生物活性物質の合成(西山繁)
1. はじめに
2. バスタジン類の合成を端緒としたフェノール酸化反応の展開
3. 環状イソジチロシン類の合成
4. スピロイソキサゾリン関連物質の合成
5. 2電子酸化成績体を用いる天然物合成への試み
6. おわりに
第17章 マクアリミシン類の全合成(只野金一)
1. はじめに
2. マクアリミシンの全合成
3. おわりに
第18章 プロセスケミストリーの現状と展望(郄村義徳,間瀬俊明)
1. はじめに
2. 製薬業界の現状
3. 医薬品開発の現状
4. プロセスケミストリーの今後
5. 臨床開発初期のプロセスケミストリー
6. 工業製造法確立へ向けたプロセスケミストリー
7. 結語
【第II編 食品素材の開発】
第19章 骨吸収抑制剤の探索
(照屋俊明,禹済泰)
1. はじめに
2. 破骨細胞の分化機構
3. 破骨細胞の骨破壊機能を阻害する天然有機化合物の探索
  3.1 破骨細胞の骨破壊機能を阻害する食物由来成分の探索

  3.2 破骨細胞の骨破壊機能を阻害する微生物由来成分の探索

4. 今後の課題
第20章 抗酸化剤の探索(永津明人)
1. はじめに
2. 探索に用いられる抗酸化活性試験
  2.1 DPPHラジカル捕捉活性

  2.2 TBA(thiobarbituric acid)法

  2.3 ロダン鉄法

  2.4 糖化タンパク質最終生成物(AGEs)生成抑制活性

  2.5 DNA切断抑制活性

3. 抗酸化活性物質の探索例
4. おわりに
第21章 米糠由来γ-オリザノールの多彩な生理活性作用(潮秀樹,堀正敏)
1. 米糠に含まれる食品素材とその有効利用
2. γ-オリザノールの単離・精製
3. 脂質代謝系への作用
4. NFκB活性阻害によるアディポネクチン産生亢進作用と抗炎症作用
5. IgE捕捉作用
6. 医薬品リード化合物・機能性食品としての実用化の展望
第22章 抗肥満素材の探索大野智弘)
1. はじめに
2. 抗肥満素材探索のためのスクリーニング方法
  2.1 カミツレ(Matricaria chamomilla L.)について

  2.2 有効成分の単離・同定

  2.3 抽出方法の検証

  2.4 エキスの濃度依存性

  2.5 抽出エキスおよび有効成分の活性比較

  2.6 食経験としての安全性

3. おわりに
第23章 ケール青汁の抗アレルギー効果(辻智子)
1. はじめに
  1.1 ケールとは

  1.2 ケール青汁摂取者の市販後調査結果

2. アトピー性皮膚炎患者におけるケール青汁飲用効果
3. スギ花粉症に対するケール青汁飲用効果
4. ケール青汁のマストセル脱顆粒抑制効果
5. ケールに含まれるIL-4産生抑制物質の探索
6. おわりに
第24章 DHAEPAの機能性(矢澤一良)
1. 魚食と健康に関する疫学調査
2. EPAの薬理作用
3. DHAの薬理活性
  3.1 中枢神経系作用

  3.2 DHAEPAの発がん予防作用

  3.3 DHAEPAの抗アレルギ−・抗炎症作用

  3.4 DHAEPAの抗動脈硬化作用

  3.5 DHAEPAのその他薬理作用に関する最新情報

  3.5.1 不飽和脂肪酸であるDHAに対する酸素の挙動について

  3.5.2 DHAによる神経細胞死抑制効果

  3.5.3 DHAEPAの血圧降下作用

4. 「マリンビタミン」の効用
第25章 緑茶カテキンのがん予防効果とその作用機構(菅沼雅美,高橋淳,葛原隆,藤木博太)
1. はじめに
2. がん予防化合物としてEGCGの発見
3. 緑茶カテキンによるTNF-αの産生抑制
4. いろいろな臓器に有効な緑茶のがん予防効果―基礎研究―
5. ヒトに有効な緑茶のがん予防効果
6. 緑茶カテキンとがん予防薬との併用による相乗的がん予防効果
7. おわりに
第26章 アスタキサンチンの新しい機能(抗メタボリックシンドローム,認知機能改善)(佐藤朗,石倉正治
1. はじめに
2. アスタキサンチンの抗酸化能
3. アスタキサンチンの分布
4. ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンの生産
5. ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンの安全性
6. ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンの抗メタボリックシンドローム効果
7. ヘマトコッカス藻色素由来のアスタキサンチンの脳機能への作用
8. おわりに
第27章 必須脂肪酸ジホモ-γ-リノレン酸アトピー性皮膚炎抑制効果(河島洋)
1. はじめに
2. 必須脂肪酸の機能
3. 発酵法によるDGLAの生産
4. 皮膚におけるDGLAの役割
5. アトピー性皮膚炎モデルにおけるDGLAの効果
6. おわりに
第28章 セリ科植物ボタンボウフウの動脈硬化抑制作用(大野木宏,榎竜嗣,加藤郁之進)
1. ボタンボウフウの生態とその利用
2. 動脈硬化の発症について
3. ボタンボウフウの抗泡沫化作用とその活性成分
4. ボタンボウフウの抗泡沫化作用のメカニズム解析
5. まとめ
第29章 カシス由来ポリサッカライドの免疫調節作用(高田良二)
1. 概要
2. カシス・ポリサッカライド(CAPS)の有用性の発見
  2.1 カシス果汁によるマクロファージの活性化

  2.2 カシス果汁のマウスにおける抗腫瘍効果

  2.3 カシス・ポリサッカライド(CAPS)とは

  2.4 CAPSのマウスにおける抗腫瘍効果

3. CAPSの生理活性向上(素材としての付加価値向上)
  3.1 CAPSの酵素処理

  3.2 部分分解CAPSの免疫調節作用

4. 酵素処理CAPSのその他の免疫調節作用
  4.1 マウスにおける抗アレルギー効果

  4.2 マウスにおけるアトピー性皮膚炎諸症状改善効果

  4.3 ヒトにおける花粉症諸症状緩和効果

5. CAPSの安全性と安定性
6. 今後の展望
第30章 糖アルコールを用いたバイオフィルム除去の新しい可能性(矢納義高,市川哲雄)
1. はじめに
2. デンタルプラークの形成
3. バイオフィルムの特徴
4. デンタルプラークの除去方法とその問題点
5. 糖アルコールがデンタルプラークに示す効果
6. 糖アルコールがデンタルプラークの除去に示す新しい効果
  6.1 エリスリトールがデンタルプラークの物理的分散に示す効果

  6.2 エリスリトールが消毒薬によるデンタルプラークの殺菌作用に示す効果

7. おわりに
 

第31章 カツオ・マグロから得られるアンセリンの生理機能性(又平芳春)
1. はじめに
2. アンセリンの精製方法
3. アンセリンの生理機能性
  3.1 抗疲労効果

  3.2 活性酸素消去能

  3.3 タンパク質糖化修飾抑制

  3.4 自律神経調節

  3.5 血糖値上昇抑制

4. アンセリンの安全性
5. おわりに
第32章 化粧品開発における新素材開発(小杉信彦)
1. はじめに
2. 霊芝
  2.1 霊芝とは

  2.2 赤霊芝のDNA損傷修復促進効果

  2.3 黒霊芝の細胞老化抑制効果

3. ザイモモナス発酵代謝
  3.1 ザイモモナス発酵代謝液とは

  3.2 ザイモモナス発酵代謝液の光老化抑制効果

4. VEP
  4.1 VEPの基本的な特徴

  4.2 VEPの紫外線皮膚障害防御効果

5. おわりに