次世代医療のための高分子材料工学

技術者・研究者向けの専門書籍紹介

次世代医療のための高分子材料工学

発刊日 2008年9月 ISBN 978-4-7813-0055-9
体 裁 B5判 286ページ

発刊にあたって
再生医療テーラーメイド医療や高感度計測,診断技術の進展において,高機能性バイオマテリアルの開発が益々重要となってきました。その中で,次世代医療を見据えた先進の高分子材料設計と技術開発研究が活発に進められています。本書は,医療用に用いられる新規高分子材料の開発からそれらを用いた新規技術の最新動向を現在ご活躍の一線の研究者の方々にご執筆頂きました。
 第1章では,先端医療用ナノ・マイクロ構造材料として,高分子の最新合成技術や自己組織化技術を駆使して,様々な構造や興味ある特性を有する医療用高分子材料の開発についてまとめられています。第2章では,バイオマテリアル開発において基本的命題のひとつである,高分子材料表面と細胞との相互作用をいかに制御しえるかという課題に対して,最近注目されている界面創製技術を解説して頂きました。また,近年,再生医療に用いられることが期待されている話題のiPS細胞をはじめ,ひとつの細胞の個性を正確に評価する技術やその細胞を高効率で単離精製する技術の開発が重要となっています。第3章では,細胞機能解析技術の最前線について解説されています。一方,細胞を自在に操作,集積して希望する組織体を構築するのは細胞工学の究極の目標であり,もちろん再生医療実現につながる重要な課題です。近年,科学者の自由な発想により様々な興味ある細胞操作技術が提案されています。第4章では,この最先端技術を取り上げました。最後に第5章では,遺伝子診断,高感度バイオ計測技術から最近進展の著しいバイオイメージング技術について解説して頂きました。いずれの稿も力作で最先端の内容が簡潔にまとめられており,また執筆者の熱い息吹を感じとって頂けるものと思います。今後の医療用高分子材料工学研究のさらなる進展の一助となることを願っています。

(「発刊にあたって」より)

2008年9月  東京医科歯科大学
秋吉一成
岸田晶夫


書籍の内容

第1章 先端医療用ナノ・マイクロ構造材料
1. ナノバイオデバイスとして機能する高分子ミセル(原田敦史)
  1.1 はじめに

  1.2 薬物キャリアとしての高分子ミセル

    1.2.1 DDSにおけるナノ微粒子の有用性

    1.2.2 ドキソルビシン結合ブロック共重合体ミセル

1.3 ポリイオンコンプレックスミセル

    1.3.1 イオン性連鎖を有するブロック共重合体からのポリイオンコンプレックスミセル形成

    1.3.2 酵素内包ポリイオンコンプレックスミセル

    1.3.3 遺伝子ベクターとしてのポリイオンコンプレックスミセル

1.4 おわり

2. くし型高分子ナノ材料(丸山厚)
  2.1 はじめに

  2.2 くし型カチオン性共重合体による高分子電解質複合体の可溶化

  2.3 カチオン性くし型共重合体による核酸ハイブリッドの安定化

  2.4 核酸ハイブリッド形成に及ぼすカチオン性くし型共重合体の速度論的効果

  2.5 くし型共重合体の核酸シャペロンとしての機能

  2.6 くし型共重合体の核酸シャペロン活性を利用した簡便,迅速,高信頼性遺伝子解析

2.7 おわりに

3. ポリロタキサン基盤材料(大谷亨)
  3.1 ポリロタキサンの研究の変遷と医用材料としての可能性

  3.2 ポリロタキサン含有水溶液としての医用材料への展開

  3.3 ポリロタキサン型ヒドロゲルとしての医用材料への展開

  3.4 ポリロタキサンの固体としての医用材料の展開

  3.5 おわりに

4. ナノゲル基盤ゲル材料(森本展行,秋吉一成)
  4.1 はじめに

  4.2 機能性ナノゲルの設計

    4.2.1 pH応答性ナノゲル

    4.2.2 温度応答性ナノゲル

    4.2.3 二重刺激(温度-酸化還元)応答性ナノゲル

    4.2.4 光応答性ナノゲル

    4.2.5 機能性ナノゲルのバイオ応用

4.3 ナノゲル基盤ゲルマテリアルの設計と機能

    4.3.1 重合性ナノゲル架橋ハイブリッドゲルの設計

    4.3.2 ナノゲル架橋法による高速高温収縮ゲルの開発

    4.3.3 ナノゲル架橋による生分解性ヒドロゲルの設計と再生医療応用

4.4 おわりに

5. 二光子励起重合による三次元細胞培養材料(渡辺敏行,中広貴)
  5.1 はじめに

  5.2 二光子励起重合とは

  5.3 二光子励起用増感剤の分子設計

  5.4 3次元光造形

  5.5 3次元パターンの作製と細胞培養

  5.6 おわりに

6. バイオ材料としての脱細胞化生体組織(岸田晶夫,藤里俊哉)
  6.1 はじめに

  6.2 研究の背景

  6.3 テーラーメード生体組織による再生医療―心臓弁を例に―

  6.4 脱細胞化法の検討

  6.5 高圧処理について

  6.6 脱細胞化生体組織の生体内埋植

  6.7 超高圧脱細胞化法の他の組織への応用

  6.8 将来展望

第2章 細胞機能制御界面創製技術
1. 微粒子集積界面での細胞挙動の観察と制御の試み(藤本啓二,美浦学)
  1.1 はじめに

  1.2 細胞挙動を制御するための表面パターニング

  1.3 微粒子集積界面と接触した細胞の応答

  1.4 細胞運動と基材表面

  1.5 培養基材の表面構造を利用した細胞シートの作製

  1.6 おわりに

2. ナノファイバー界面(吉川千晶,小林尚俊)
  2.1 ナノファイバー

  2.2 ナノファイバーの作製技術

  2.3 ナノファイバーの構造制御

  2.4 細胞-ナノファイバーの相互作用

  2.5 血管を誘導する足場材料

  2.6 ナノファイバーと表面改質技術を組み合わせた角膜実質再生足場材料

  2.7 おわりに

3. ハニカムフィルム界面(田中賢,下村政嗣)
  3.1 はじめに

  3.2 多孔質高分子薄膜を作製するための微細加工技術

  3.3 自己組織化による多孔質高分子薄膜の作製

  3.4 自己組織化によるハニカムフィルムの作製と構造制御

  3.5 ハニカムフィルムによる細胞機能制御

4. 高密度ポリマーブラシ界面(岩粼泰彦)
  4.1 はじめに

  4.2 表面グラフト重合

  4.3 表面開始リビング重合

  4.4 原始移動ラジカル重合を利用した表面グラフト

  4.5 ポリマーブラシによるバイオインターフェースの設計

  4.6 おわりに

5. PEGブラシ修飾界面(長崎幸夫)
  5.1 はじめに

  5.2 ポリエチレンオキシドの物理化学的性質

  5.3 ナノバイオマテリアル創製のためのヘテロ2官能性ポリエチレングリコールの分子設計

  5.4 ヘテロ2官能性PEGを利用した機能性ナノバイオインターフェースの構築

  5.5 タンパク質ハイブリッド密生層の構築

  5.6 DNAハイブリッド密生層の構築

  5.7 酵素/PEG密生層の構築

  5.8 おわりに

6. ラビング法による凹凸配向界面(川上浩良)
  6.1 はじめに

  6.2 ラビング法による微細凹凸パターン化表面の作製

  6.3 パターン化表面での細胞増殖挙動と細胞機能の評価

  6.4 スフェロイドのビルディング化

  6.5 おわりに

第3章 細胞機能解析技術
1. 細胞マイクロアレイチップ(杉浦慎治,須丸公雄,金森敏幸)
  1.1 はじめに

  1.2 細胞マイクロアレイの基本原理

  1.3 細胞接着制御技術

  1.4 Lab on a Chip技術の利用

  1.5 おわりに

2. トランスフェクションアレイの実際(井上祐貴,岩田博夫)
  2.1 はじめに

  2.2 遺伝子導入法によるトランスフェクションアレイの分類

    2.2.1 カチオン性脂質

    2.2.2 カチオン性高分子

    2.2.3 エレクトロポレーション

    2.2.4 ウィルスベクター

  2.3 エレクトロポレーションを利用したトランスフェクションアレイの実際

    2.3.1 プラスミドDNA担持アレイ電極の作製

    2.3.2 細胞播種およびパルス印加による遺伝子導入

  2.4 生物学的研究におけるトランスフェクションアレイの有用性

    2.4.1 アポトーシス関連遺伝子の探索

    2.4.2 RNAiによる遺伝子機能のノックダウン

    2.4.3 タンパク質間相互作用解析への適用

  2.5 今後の発展と残された課題

3. オンチップ・セロミクス(安田賢二)
  3.1 はじめに

  3.2 オンチップ・セロミクス:構成的アプローチによる細胞からの生命システムの理解

  3.3 オンチップ・セロミクス計測の要素技術

    3.3.1 オンチップセルソーター

    3.3.2 オンチップ細胞ネットワーク計測技術

  3.4 オンチップセロミクス計測の応用技術

    3.4.1 細胞の同期現象における集団効果の理解

    3.4.2 神経ネットワークの記憶モデル

  3.5 おわりに

4. メカニカルストレスに対する細胞応答の解析技術(片野坂友紀,竹内崇,成瀬恵治)
  4.1 はじめに〜メカニカルストレスに対する細胞応答機構の解明に向けて〜

  4.2 心血管細胞を用いた機械刺激応答解析の重要性

  4.3 血管内皮細胞における伸展(ストレッチ)刺激応答の解析

    4.3.1 ストレッチ刺激培養条件下で細胞の形態変化を観察する

    4.3.2 伸展刺激依存的な細胞内Ca2+上昇をモニターする

    4.3.3 ストレッチ刺激依存的な細胞応答(細胞のリモデリング)を解析する

    4.3.4 マイクロコンタクトプリンティング法による細胞形成制御と機械刺激負荷技術

  4.4 HUVECにおけるストレッチ依存的チャネルの役割

  4.5 メカノトランスダクション解析技術に必要なこと

5. 幹細胞分離法とポピュレーション解析(馬原淳,山岡哲二)
  5.1 はじめに

  5.2 再生医療における幹細胞

    5.2.1 胚性幹細胞(ES細胞

    5.2.2 人工多能性幹細胞(iPS細胞)

    5.2.3 間葉系幹細胞(MSC

    5.2.4 造血幹細胞(HSC)・血管内皮前駆細胞(EPC)

  5.3 細胞分離法

    5.3.1 電場を利用した細胞分離

    5.3.2 磁場を利用した細胞分離

    5.3.3 Hydrodynamicを利用した分離

  5.4 細胞分離カラムの開発

  5.5 おわりに

第4章 細胞操作技術
1. 細胞積層技術の開発と生体組織モデルの構築(松崎典弥,明石満)
  1.1 はじめに

  1.2 フィブロネクチン-ゼラチン薄膜の形成

  1.3 細胞積層化の検討

  1.4 細胞の3次元積層化

  1.5 血管モデルの構築

  1.6 おわりに

2. 細胞接着剤によるスフェロイド形成(田口哲志)
  2.1 はじめに

  2.2 スフェロイド形成の現状

    2.2.1 重力制御によるスフェロイド形成

    2.2.2 界面制御によるスフェロイド形成

    2.2.3 分子間相互作用によるスフェロイド・ベクシル集合体形成

  2.3 胞接着剤によるスフェロイド形成

    2.3.1 すい臓β細胞のスフェロイド形成

    2.3.2 スフェロイド表面の細胞形態

    2.3.3 スフェロイドの生化学的機能

  2.4 おわりに

3. 微視的材料力学場設計による細胞機能のベクトル操作(木戸秋悟)
  3.1 はじめに

  3.2 細胞の硬領域指向性運動:メカノタクシス

  3.3 微視的表面弾性分布設計による細胞メカノタクシス誘導条件の検討

    3.3.1 硬軟各領域の弾性率値および弾性ジャンプ幅の影響

    3.3.2 弾性勾配特性の影響

  3.4 表面弾性率マイクロパターニングによる細胞操作:運動および分化ベクトル制御

  3.5 細胞操作技術:液性因子vs.固相因子

4. インクジェットプリンターによる細胞操作技術(岩永進太郎,逸見千寿香,西村勇一,中村真人
  4.1 はじめに

  4.2 インクジェットプリンティングによる「組織印刷」の構想

  4.3 3Dバイオプリンターによる生体親和性ゲルを用いた細胞の立体配列

  4.4 細胞立体培養を可能にするインクジェット用ゲル素材の開発

  4.5 おわりに

5. 細胞親和性ソフトバイオマテリアル(セルコンテナー)(金野智浩,石原一彦)
  5.1 はじめに

  5.2 自発形成-可逆解離型リン脂質ポリマーハイドロゲル

  5.3 セルコンテナー特性

  5.4 おわりに(セルコンテナーの今後の展望)

6. 幹細胞操作のためのバイオマテリアル(伊藤嘉浩)
  6.1 はじめに

  6.2 幹細胞

    6.2.1 ES細胞

    6.6.2 iPS細胞

    6.2.3 体性幹細胞

  6.3 幹細胞を未分化状態のまま増幅

    6.3.1 ES細胞,iPS細胞

    6.3.2 体性幹細胞

    6.3.3 バイオマテリアルを用いた未分化維持培養

  6.4 幹細胞を分化誘導

    6.4.1 ES細胞の分化誘導

    6.4.2 バイオマテリアルを用いたES細胞分化誘導

    6.4.3 体性幹細胞の分化誘導

    6.4.4 バイオマテリアルを用いた体性幹細胞分化誘導

  6.5 おわりに

第5章 バイオ計測技術
1. 蛍光性微粒子によるバイオアッセイ(井原敏博)
  1.1 はじめに

  1.2 発光性微粒子の特性

    1.2.1 有機高分子スフェア

    1.2.2 Quantum dot(QD)

    1.2.3 その他の発光性微粒子

  1.3 バイオアッセイへの応用

    1.3.1 細胞用蛍光プローブ

    1.3.2 選択的凝集反応を利用したバイオアッセイ

    1.3.3 FRETを利用したバイオアッセイ

    1.3.4 マルチカラーコード

    1.3.5 多光子励起(アップコンバージョン蛍光)

2. DNAコンジュゲートポリマーによるバイオ計測(金山直樹,前田瑞夫)
  2.1 はじめに

  2.2 DNAコンジュゲートポリマーの“かたち”を利用する

  2.3 DNAコンジュゲートポリマーの“特異な性質”を利用する

  2.4 DNAコンジュゲートポリマーの“集合体”を利用する

    2.4.1 一塩基変異識別

    2.4.2 末端変異識別

    2.4.3 酸化損傷体の塩基対形成判定

    2.4.4 ターゲット分子の目視検出

  2.5 おわりに

3. 微量血液診断チップ(高井まどか)
  3.1 はじめに

  3.2 血液診断チップの設計概念

  3.3 マイクロ流路への生体適合性表面創製

    3.3.1 タンパク質の分離チップ

    3.3.2 イムノアッセイチップ

  3.4 おわりに

4. 分子イメージングのためのナノ材料(横山昌幸,白石貢一)
  4.1 はじめに

  4.2 分子イメージングとは

  4.3 イメージングプローブの種類

  4.4 MRI造影剤の例

    4.4.1 MRI造影剤の原理と種類

    4.4.2 高分子キャリヤーを用いたT1タイプ造影剤の例