脳内老化制御とバイオマーカー:基盤研究と食品素材

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脳内老化制御とバイオマーカー:基盤研究と食品素材


発刊日 2009年5月 ISBN 978-4-7813-0094-8
体 裁 B5判 321ページ

発刊にあたって
最近の脳内老化に関する研究は急速な進歩を遂げ,基礎研究のために,さまざまな段階の動物モデルが開発されてきている。
 最も重要だと考えられているのが,一次予防としての認知症発症の予防である。これまでに多くの疫学研究が行われており,食事が重要な因子の一つであることは明らかである。実際に,高血糖に基づく生体内メイラード反応やコレステロール代謝などがアルツハイマー症をはじめとする認知症発症に大きな役割を果たしていると報告されている。さらに,認知症予防が期待できる様々な機能性食品因子の開発にも多くの報告がなされており,DHAポリフェノールなどの機能性食品因子に関しては,基礎研究だけでなく,介入試験も実施されている。
 しかしながら,老化制御に関する研究が,十分な科学的根拠に基づいているとは言い難い。
 老化制御の基礎研究だけでなく,科学的な根拠に基づいた予防法や機能性食品の開発のために,認知症の進行や予兆などが評価できるような生体指標(バイオマーカー)の開発が重要な課題とされてきている。
 このような老化制御に関連したバイオマーカーを評価系として用いた多種多様な食品や素材の開発が進められ,本書では,それらの研究の最新の研究動向を紹介している。さらに,最近,特に大きな注目を集めているのが,ライフスタイルの関与である。運動や音楽療法,さらには,「笑い」の効果など,日常生活で生じるストレスの軽減化と共に,漢方療法のような代替医療などの伝統療法にも注目が集められている。
 バイオマーカーをキーワードに,「老化制御」に関る基礎研究から疫学・介入試験の現状と動向,また,機能性食品・素材開発研究の最新の話題を中心に紹介すべく,この分野で活躍中の多くの研究者の方々に執筆をお願いした。
 「老化制御」の重要性が世界的にも認知されつつあり,本書の刊行は,きわめてタイムリーであり,食品機能の研究者のみならず,予防医学臨床医学,生化学,薬理学,栄養学,食品科学など,産官学の一線の研究者にとって必読の書であると確信する。

(「緒言」より抜粋)

2009年4月  名古屋大学 大学院生命農学研究科 大澤俊彦


書籍の内容

【序編 総論】
第1章 脳内酸化制御におけるバイオマーカーの開発―酸化ストレスを中心に―(加藤陽二,大澤俊彦)
1. はじめに
2. 脂質酸化物によるタンパク質リジンへの付加修飾
3. 脂質酸化物によるドパミン修飾
4. 炎症性ストレスと脳内老化
5. まとめ
第2章 神経細胞の老化と食品―バイオマーカーを中心に―(丸山和佳子)
1. はじめに
2. 老化と加齢
3. 老化のバイオマーカー
4. 神経細胞の特性と老化
5. 神経老化のマーカー
6. 神経老化マーカーにより何が可能か

【第1編 脳内老化のメカニズムと老化制御の基盤的研究】
第1章 酵母を用いた老化研究
(松浦彰)
1. 出芽酵母の二種類の老化
2. 老化に伴う細胞の生理的変化
  2.1 分裂老化

  2.2 経時老化

3. 酵母の寿命を変化させる外的要因
4. 酵母の分裂老化の遺伝学
5. 老化の中心的制御因子Sir2
6. カロリー制限の遺伝的モデル
7. 遺伝学から化学遺伝学へ
8. 酵母の老化は普遍的な老化モデルとなりうるか?
第2章 ショウジョウバエをもちいた老化研究(津田玲生)
1. 序論
2. ショウジョウバエの基本的な実験操作
3. 酸化ストレス応答と寿命制御機構
  3.1 酸化ストレス応答因子と寿命制御

    3.1.1 Superoxide dismutase

    3.1.2 Glutamate-cysteine ligase

    3.1.3 Apolipoprotein D

    3.1.4 SdhB

    3.1.5 Jun-N-terminal Kinase

  3.2 寿命制御因子から見た酸化ストレス応答

    3.2.1 寿命制御因子methuselahと酸化ストレス応答

    3.2.2 SIRTファミリー分子の機能と酸化ストレス応答

    3.2.3 インシュリンシグナル伝達と酸化ストレス応答

4. 酸化ストレス応答と老化の分子レベルでの共通性
5. 加齢性神経疾患と酸化ストレス応答
6. ケミカルジェネティックスを用いた老化・酸化ストレス研究の実際
  6.1 4-phenylbutyrateによる寿命制御

  6.2 レスベラトロールによる寿命制御

  6.3 Tetrahydrocurcuminによる寿命制御

  6.4 標的蛋白質の同定

  6.5 ケミカルジェネティックスの今後の展望

第3章 マウスを用いた老化研究(本山昇)
1. はじめに
2. インスリンインスリン様成長因子シグナル経路と老化
  2.1 マウスにおけるIIS経路と寿命・老化

  2.2 FOXO転写因子と寿命・老化

  2.3 酸化ストレス抵抗性と寿命・老化

3. Sirtuinと寿命・老化
4. ゲノム安定性の破綻と老化
  4.1 DNA損傷と老化

  4.2 DNA損傷応答は老化の原因?

5. おわりに
  

第4章 酸化ストレスの神経老化における役割(永井雅代)
1. はじめに
2. 酸化ストレスと神経変性疾患
3. パーキンソン病(Parkinson disease;PD)
4. PDとミトコンドリア機能不全
5. PDとUPS機能障害
6. 神経変性疾患での酸化修飾タンパク質
7. まとめ
第5章 神経の変性・老化とミトコンドリア(西垣裕,田中雅嗣)
1. はじめに
2. 生命と死の番人としてのミトコンドリア
3. 中枢神経におけるミトコンドリア
4. 神経疾患とミトコンドリア機能障害
  4.1 神経変性疾患

    4.1.1 Alzheimer病

    4.1.2 Parkinson病

  4.2 神経疾患

  4.3 老人性難聴

5. 中枢神経はミトコンドリア病の標的臓器である
6. mtDNAにおける変異蓄積と神経老化
7. 常染色体遺伝性ミトコンドリア病におけるmtDNA変異蓄積
8. 長寿に関連するmtDNA多型とハプログループ
9. おわりに
第6章 細胞内酸化還元状態と神経細胞死制御(直井信,丸山和佳子)
1. はじめに
2. 細胞における酸化還元状態
3. グルタチオン濃度の調節に関与する酵素
4. 酸化還元状態により調節されるタンパクCysのSH基
5. 酸化還元状態により調節される細胞機能
6. 神経変性疾患での酸化還元状態と細胞死
7. 食品成分による神経細胞の保護
第7章 ホルミシスを介した脳の老化制御(伊藤雅史,野澤義則)
1. はじめに
2. ホルミシス仮説
3. ホルミシスファイトケミカル
4. 神経ホルミシスを誘導するファイトケミカルによる脳老化制御
5. ファイトケミカルによるNrf2/AREシステム活性化を介した脳老化制御
6. ゼノホルミシス仮説
7. おわりに

【第2編 疫学研究と介入試験】
第1章 DHAイソフラボン摂取と脳の高次機能(安藤富士子,下方浩史)
1. 高齢社会と脳の加齢変化
2. DHAと脳高次機能
3. イソフラボンと脳高次機能
4. DHAイソフラボンの脳機能に対する相加作用,相乗作用
5. まとめ
第2章 カロテノイド摂取によるヒト脳の老化抑制(片桐幹之,白澤卓二)
1. はじめに
2. 脳機能の測定方法
  2.1 CogHealth

  2.2 脳波事象関連電位P300

3. アスタキサンチンの脳機能改善効果確認試験
  3.1 対象者

  3.2 試験食品

  3.3 試験デザイン・試験方法

  3.4 結果

4. 考察
第3章 糖分摂取とアルツハイマー(大塚美恵子)
1. はじめに
2. インスリンアルツハイマー病に関する知見
3. アルツハイマー病患者の栄養学的問題点
4. アルツハイマー病患者に対する栄養学的介入
5. 砂糖と脳機能
6. アルツハイマー病患者の高インスリン血症と甘い菓子類摂取
7. 砂糖摂取のアルツハイマー病モデルマウスへの影響
8. AD患者とメタボリック症候群
9. まとめ
 

第4章 コレステロール代謝アルツハイマー(道川誠)
1. はじめに
2. コレステロール代謝アルツハイマー病発症機構のどこに関与するのか
3. 高コレステロール血症はアルツハイマー病の危険因子か
4. 動脈硬化アルツハイマー病の危険因子である
5. スタチンとアルツハイマー
6. 脳内コレステロール代謝アルツハイマー
7. タウオパシーとアルツハイマー

【第3編 食品素材】
第1章 トコフェロール,トコトリエノール(阿部皓一)
1. ビタミンEの発見と種類と作用
2. 脳神経系におけるα-トコフェロール
3. 脳神経系におけるγ-トコフェロール,トコトリエノール

第2章 DHAEPA(矢澤一良)
1. はじめに―ブレインフードとは何か―
2. EPAの薬理作用
3. DHAの薬理活性としての中枢神経系作用
4. おわりに
第3章 イチョウ葉エキス(内藤裕ニ,吉川敏一)
1. はじめに
2. EGb761の薬理作用
  2.1 EGb761の抗酸化能
    2.1.1 EGb761の活性酸素フリーラジカル消去活性
    2.1.2 EGb761の脂質過酸化抑制作用
    2.1.3 活性酸素産生抑制作用
    2.1.4 動物実験モデルでの抗酸化作用
  2.2 血小板活性化因子拮抗作用
  2.3 血流や循環に対する影響
  2.4 その他の作用
3. 臨床薬理動態
4. EGb761の臨床応用
5. 今後の臨床応用
第4章 アンセリンカルノシン(西村敏英)
1. はじめに
2. アンセリンカルノシンの構造と特徴
3. アンセリンカルノシンの分布
  3.1 動物種や組織による分布の違い
  3.2 筋肉における変動とその因子
  3.3 血中における変動
4. アンセリンカルノシンの吸収と代謝
  4.1 アンセリンカルノシンの吸収と動態
  4.2 アンセリンカルノシンの合成
  4.3 アンセリンカルノシンの分解
5. アンセリンカルノシンの生理作用
  5.1 抗酸化作用
    5.1.1 抗酸化作用の特徴
    5.1.2 細胞や動物に対する抗酸化作用
  5.2 β-アミロイドによる細胞毒性低下作用
  5.3 脳の活動亢進作用
  5.4 グルコシル化阻害作用
第5章 アスタキサンチン(矢澤一良)
1. はじめに―眼精疲労のメカニズム―
2. スーパーカロテノイド―アスタキサンチン
3. 眼精疲労・筋肉疲労の軽減効果を有する抗酸化成分
  3.1 眼精疲労の軽減効果を有するアスタキサンチン
  3.2 筋肉疲労軽減効果を有するアスタキサンチン
4. おわりに
第6章 γ-アミノ酪酸(GABA)(横越英彦)
1. GABAとは
2. GABAの体内動態
3. GABAの生理機能
  3.1 血中コレステロール低下作用
  3.2 成長ホルモン分泌促進作用
  3.3 脂肪燃焼作用
  3.4 抗肥満効果
  3.5 その他の作用
4. GABAと脳のかかわり
  4.1 血圧上昇抑制作用
  4.2 精神安定作用
    4.2.1 脳波実験
    4.2.2 気分調査
5. 脳代謝促進剤としての医薬効果
  5.1 ストレスと脳内物質の変化
  5.2 自律神経活動調査(瞳孔,血圧等)
  5.3 疲労軽減および効率アップ
6. GABAの将来性や今後の展望
第7章 コエンザイムQ10(山本順寛)
1. はじめに
2. CoQ10の機能
  2.1 コエンザイムQの発見とエネルギー(ATP)産生での役割
  2.2 抗酸化作用
  2.3 加齢に伴うCoQ10細胞内濃度の減少
3. CoQ10の応用
  3.1 サプリメントの利用と体感
  3.2 所要量と安全性
  3.3 サプリメントで摂取したCoQ10は組織まで届くか?
  3.4 パーキンソン病
4. おわりに
第8章 ホスファチジルセリン(PS)(平山諭,高下崇)
1. 概要
2. 製造方法
3. アルツハイマー症での臨床試験
  3.1 1986年,P.J.Delwaide等
  3.2 1988年,L.Amaducci等
  3.3 1993年,T.Cenacchi等
4. 認知症での臨床試験
  4.1 1987年,G.Palmieri等
  4.2 1987年,D.Nerozzi等
  4.3 1987年,J.C.Villardita等
5. 高齢者の記憶力低下(Age Related Cognitive Decline,以下ARCDと略す)に関する臨床試験
6. その他の機能性
  6.1 精神的ストレスに対する臨床試験
  6.2 抑うつ症に対する臨床試験
  6.3 てんかん患者に対する臨床試験
  6.4 スポーツ栄養への効果について
  6.5 AD/HD症状に対する効果について
7. 安全性
8. 作用機序
9. おわりに
第9章 クルクミン(大澤俊彦)
1. 「クルクミノイド」の持つ機能性
2. 「クルクミノイド」の老化制御機能
3. 認知症予防と「クルクミノイド」
4. 「クルクミノイド」のハロゲン化抑制効果
 
第10章 その他のハーブ類(ビンカマイナーバコパなど)(矢澤一良)
1. はじめに
2. 精神的疲労とストレス・マネジメント
3. インドハーブのバコパ・モンニエリ(Bacopa monnnieri)
  3.1 記憶と学習
  3.2 抗不安作用・睡眠改善作用
4. ビンカマイナーとは
  4.1 認知症に対するビンカマイナーの効果(Fischoofらの臨床試験
  4.2 脳血液循環不全による諸症状の緩和(Novisの臨床試験
  4.3 記憶力,注意力の改善
  4.4 憂うつ症,視覚障害の改善
5. 「良質の睡眠」と食用ハーブ類
  5.1 バレリアン(セイヨウカノコソウ)
  5.2 ホップ
  5.3 ギャバ(GABA:ガンマ-アミノ酪酸
  5.4 セントジョンズワート(和名:西洋オトギリソウ)
6. おわりに
第11章 αリポ酸(米井嘉一)
1. はじめに
2. 機能性成分としてのαリポ酸
3. 抗酸化ネットワークにおけるαリポ酸の役割
4. αリポ酸の抗酸化作用
5. 血圧に対する影響
6. 糖尿病との関連
7. 神経系への作用
8. 抗糖化作用について
9. 自験例でのαリポ酸の評価
10. 抗酸化物質の摂取が望ましい場合
11. まとめ
第12章 リン脂質(柚木恵太,木下幹朗,大西正男)
1. はじめに
2. リン脂質の構造的特徴
3. リン脂質素材
4. 老化に対するリン脂質の生理作用
  4.1 酸化ストレスとリン脂質
  4.2 脳老化に対するリン脂質の作用
【第4編 ストレスと老化―メンタルとフィジカル―】
第1章 ストレスと脳内老化増尾好則,二木鋭雄)
1. はじめに
2. ストレス
  2.1 ストレスの定義
  2.2 ストレス反応
  2.3 ストレス反応に関わる神経
3. ストレスと脳内老化
  3.1 老化
  3.2 脳の萎縮
  3.3 ストレスホルモン
  3.4 酸化ストレス
  3.5 酸化ストレスと神経細胞
4. 脳内老化の抑制
  4.1 脳の可塑性
  4.2 ストレス抑制
5. おわりに
第2章 漢方薬生薬による脳内老化制御(築地謙治,渡辺賢治)
1. はじめに
2. 老化に伴う脱髄に対する人参養栄湯の効果
3. 人参養栄湯の作用機序
4. カプリゾン誘発性脱髄に対する人参養栄湯の遺伝子発現への影響
5. 行動学的検討
6. 結語
第3章 脳内老化予防と運動(佐藤祐造
1. はじめに
2. 生理的老化と病的老化
3. 加齢による脳神経系の変化
  3.1 形態的変化
  3.2 神経細胞,神経線維(樹状突起
  3.3 色素,代謝産物の沈着
4. 脳神経系の構造と運動中枢
  4.1 神経細胞ニューロン
  4.2 随意運動の行われ方
  4.3 運動中枢
  4.4 錐体路錐体外路の走行
5. 運動が脳神経系に与える効果
  5.1 運動不足の弊害
  5.2 脳神経系に及ぼす運動の影響
    5.2.1 運動学習(上達)における脳のメカニズム
    5.2.2 運動と脳血流量
    5.2.3 運動時の脳グルコース代謝
  5.3 身体トレーニングと脳血管障害
6. 運動処方の実際
  6.1 運動療法の適応とメディカルチェック
  6.2 運動の種類と方法
  6.3 運動療法実施上の注意点
7. おわりに
第4章 音楽療法の効果(佐治順子)
1. 音楽療法とは何か
2. 音楽療法の対象と実践方法
  2.1 音楽療法の対象
  2.2 音楽療法の実践
3. 認知症高齢者の音楽療法実践―「固有テンポ」の行動学的考察―
  3.1 音楽療法の対象者
  3.2 対象者の「固有テンポ」計測方法
  3.3 「固有テンポ」計測の結果
  3.4 「固有テンポ」計測の考察
4. 認知症高齢者の「固有テンポ」時の脳波実験―脳生理学的考察―
  4.1 脳波実験の対象と方法
  4.2 脳波実験の結果
  4.3 脳波実験の考察
  4.4 結び
5. 音楽療法効果の評価
第5章 笑いの効果(岩瀬真生)
1. はじめに
2. 健常者に対する笑いの効果
  2.1 免疫的効果
  2.2 内分泌学的効果
3. 各種疾患に対する笑いの効果
  3.1 強直性脊椎炎
  3.2 慢性関節リウマチ
  3.3 アトピー性皮膚炎
  3.4 スギ花粉症
  3.5 気管支喘息
  3.6 糖尿病
4. おわりに