アミノ酸の科学と最新応用技術

技術者・研究者向けの専門書籍紹介

アミノ酸の科学と最新応用技術


発刊日 2008年7月 ISBN978-4-7813-0013-9 C3045
体 裁 B5判,323頁

刊行のねらい
 古くさい栄養素の代表であったアミノ酸が,21世紀の幕開けと共に大きな変身を遂げ,全く新規で有用な生体物質であるかのように巷の話題をさらったのはつい最近である。この社会的関心の爆発的広がりと共に,専門家の間でもアミノ酸に対する見直しの気運が高まっている。今や,アミノ酸に関する科学的知識・情報も20年前と比べると格段の進歩がある。すでに教科書の中のアミノ酸の記述は大きく書き改める段階にある。昨年11月には第1回日本アミノ酸学会が東京大学にて開催され,基礎研究の専門学会にもかかわらず,多くの若い人々の熱気に包まれた。また,国際的にも2001年よりアミノ酸生命科学に関する連続シンポジウムが日米欧で開催されており,アミノ酸の再評価はすでに始まっている(その詳細はJournalofNutritionSupplementSeriesで知ることができる)。こうした流れにあって,改めて基礎研究者にとっても応用研究者にとっても,表面的で断片的ではない,しっかりとまとまったアミノ酸に関する最新知識が切実に求められている。本書は,我が国におけるそうした知的状況に応えるべく企画されたものである。幸い,ここに本分野における最良の執筆者を得ることができた。

 基礎編ではアミノ酸の基本知識に始まり,アミノ酸の生体での役割を生理学的な視点から,つまり味覚,内臓感覚,脳機能,代謝調節,生体恒常性を取り扱った。そして,近年のサプリメントの発展から付随して生まれてきた,アミノ酸の大量摂取に伴う安全性の議論を加えた。また,アミノ酸の工業的製造技術についても言及した。

 応用編ではライフスタイルとアミノ酸と題して,特に現代のニーズであるスポーツ,美容,高齢者のQOLの改善といった健康増進への役割と可能性を述べていただいた。さらに,より長く深い研究の歴史を持つ医療分野のアミノ酸ということで,先天性代謝異常,ガン,腎炎,高脂血症,そして経腸栄養について議論していただいた。最後に,最近注目の個別のアミノ酸について,様々な応用を目指して気鋭の専門家に記述していただいた。

 最近,アミノ酸に関する新しい情報を伝える書籍がようやく世に出回り始めたが,アミノ酸の実際的活用を意図する方々には,本書は最もよくまとまった一冊ではないかと自負している。本書がアミノ酸に関心を抱く多くの研究者に,必要な最新の情報をお伝えでき,アミノ酸の研究開発のますますの発展に寄与できれば,監修者の一人として望外の喜びである。

(「はじめに」より)

2008年7月
日本アミノ酸学会会長 門脇基二



【第1編 基礎編】

第1章 アミノ酸の科学
1. アミノ酸の化学(門脇基二)
  1.1 アミノ酸の種類
  1.2 アミノ酸の化学的性質
    1.2.1 両性イオン
    1.2.2 光学活性
  1.3 アミノ酸の生化学的性質
    1.3.1 生体成分の中心
    1.3.2 タンパク質の素材
    1.3.3 エネルギー物質として貢献
    1.3.4 多様な生理活性物質の源
    1.3.5 生理的調節分子として作用
  1.3.6 必須アミノ酸と非必須アミノ酸

2. アミノ酸の生物学(稲川健太郎高橋迪雄)
  2.1 はじめに
  2.2 生体でのアミノ酸
  2.3 アミノ酸の生物学的機能
    2.3.1 必須アミノ酸の生物学的機能
    2.3.2 非必須アミノ酸の生物学的機能
  2.4 機能性素材としてのアミノ酸
    2.4.1 食品添加物としてのアミノ酸
    2.4.2 機能性素材としての必須アミノ酸の意義
    2.4.3 機能性素材としての非必須アミノ酸の意義
    2.4.4 機能性素材としてのアミノ酸の安全性
  2.5 おわりに


第2章 食とアミノ酸
1. 味覚(村田芳博,二ノ宮裕三)
  1.1 味覚器の構造
  1.2 味覚受容体
  1.3 味細胞内情報伝達機構
  1.4 うま味研究の歴史

2. 内臓感覚(新島旭)
  2.1 はじめに
  2.2 内臓感覚
    2.2.1 腹部内臓の求心性神経支配
    2.2.2 腹部内臓に存在するアミノ酸センサーの働き
  2.3 総括

3. うま味と味覚識別の中枢機構(西条寿夫,上野照子,小野武年)
  3.1 はじめに
  3.2 味覚識別機構と食物摂取
  3.3 橋結合腕傍核における味覚情報処理
    3.3.1 味覚識別機構
    3.3.2 摂取調節機構
  3.4 扁桃体における味覚情報処理
    3.4.1 味覚の情動的価値評価
    3.4.2 連合学習における扁桃体の役割
  3.5 眼窩皮質におけるうま味の認知機構
    3.5.1 ラット眼窩皮質
    3.5.2 ヒト眼窩皮質
  3.6 おわりに

4. 代謝調節(坂井良成,門脇基二)
  4.1 はじめに
  4.2 トランスポーターを介したアミノ酸輸送の制御
  4.3 エネルギー代謝アミノ酸代謝とのクロストーク
  4.4 タンパク質の摂取に応じたアミノ酸代謝調節
  4.5 遺伝子発現を介したアミノ酸代謝調節
  4.6 おわりに

5. 生体恒常性維持の仕組み(鳥居邦夫)
  5.1 はじめに
  5.2 栄養状態と行動(食欲,嗜好性)の変化
  5.3 必須アミノ酸欠乏の認知機構
  5.4 非必須アミノ酸の日内変動と恒常性維持の仕組み
  5.5 おわりに

6. アミノ酸の安全性(坂井良成,増澤(栗山)陽子,木村毅
  6.1 タンパク質構成成分としてのアミノ酸の安全性
  6.2 多様なアミノ酸組成のタンパク質摂取への適応
  6.3 単一アミノ酸摂取の安全性
  6.4 安全なアミノ酸摂取量の推定
  6.5 アミノ酸過剰摂取による有害事象
  6.6 トリプトファン事件
  6.7 おわりに


第3章 アミノ酸の製造方法
                         (木村英一郎)
1. はじめに
2. アミノ酸の工業的生産と日本
  2.1 うま味物質としてのグルタミン酸の発見と調味料としての工業化
  2.2 広がるアミノ酸の利用と工業的生産
3. アミノ酸の製造方法
  3.1 抽出法
  3.2 化学合成法
  3.3 発酵法
  3.4 酵素
4. アミノ酸発酵の要素技術
  4.1 発酵原料
  4.2 育種技術
  4.3 培養プロセス技術
  4.4 単離・精製技術
  4.5 環境対応技術
5. グルタミン酸発酵の最新の知見
  5.1 グルタミン酸生産菌の発見
  5.2 グルタミン酸過剰生成機構に関する研究
6. 将来技術


【第2編 応用編】

第4章 ライフスタイルとアミノ酸
1. スポーツにおけるアミノ酸サプリメントの応用:分岐鎖アミノ酸(BCAA)を中心として(下村吉治)
  1.1 はじめに
  1.2 BCAA代謝の調節機構とそれに対する運動の影響
    1.2.1 BCAA代謝
    1.2.2 運動によるBCAA代謝の促進
    1.2.3 BCAA代謝調節系酵素の発現を操作した動物モデル
  1.3 運動による筋損傷および筋肉痛に対するBCAAサプリメントの効果
  1.4 運動による中枢性疲労に対するBCAAサプリメントの効果
  1.5 運動の持久性に対するBCAAサプリメントの影響
  1.6 タンパク質およびBCAAサプリメントの摂取タイミング

2. 皮膚機能と美容(田上八朗)
  2.1 皮膚の存在意義としてのバリア機能
    2.1.1 皮膚の構造と細胞の働き
    2.1.2 病的皮膚における代謝の促進
    2.1.3 表皮内のそのほかの細胞とその働き
    2.1.4 バリアとしての角層
    2.1.5 経皮透過
    2.1.6 健常人での角層のバリア機能
  2.2 皮膚の美容と角層の水分
    2.2.1 角層内の水分の働き
    2.2.2 角層表層の水分含有量の測定
    2.2.3 角層内の水分分布
    2.2.4 角層の水分結合物質
    2.2.5 角層内の水分の存在形態
    2.2.6 正常角層のアミノ酸分布と角層水分保持機能
    2.2.7 病的皮膚の剥離角層中の水分とアミノ酸
    2.2.8 アトピー性乾皮症
    2.2.9 乾燥性皮膚病変の治療と美容
  2.3 まとめ

3. 高齢者とアミノ酸(小林久峰)
  3.1 はじめに
  3.2 加齢に伴って起こる骨格筋の量と機能の減少(サルコペニア
  3.3 サルコペニアの原因
  3.4 高齢者の骨格筋タンパク質代謝の特徴
  3.5 運動による骨格筋タンパク質代謝の変化
  3.6 アミノ酸摂取による骨格筋タンパク質代謝の変化
  3.7 高齢者におけるアミノ酸摂取に対する骨格筋タンパク質代謝の反応
  3.8 高齢者のサルコペニアを改善するためのアミノ酸組成
  3.9 高齢者におけるアミノ酸の長期摂取効果
  3.10 おわりに


第5章 病態とアミノ酸
1. 先天性アミノ酸代謝異常(遠藤文夫)
  1.1 はじめに
  1.2 先天性アミノ酸代謝異常症の病態
  1.3 先天性アミノ酸代謝異常症の診断
  1.4 新生児マススクリーニング
  1.5 先天性アミノ酸代謝異常症各論
    1.5.1 フェニルケトン尿症
    1.5.2 遺伝性高チロシン血症
    1.5.3 メープルシロップ尿症
    1.5.4 尿素サイクル異常症
    1.5.5 リジン尿性蛋白不耐症
    1.5.6 シトリン異常症(シトルリン血症II型)
    1.5.7 高グリシン血症
    1.5.8 高プロリン血症
    1.5.9 ホモシスチン尿症
    1.5.10 セリン生合成の異常
    1.5.11 グルタミン合成の異常(グルタミン合成酵素欠損症)

2. アミノ酸の食理作用(矢ヶ崎一三)
  2.1 食理学について
  2.2 糸球体腎炎に対する含硫アミノ酸スレオニンの作用
  2.3 タンパク質栄養障害時のサイトカイン産生に対するグルタミンの作用
  2.4 癌性高脂血症に対する含硫アミノ酸の作用
  2.5 癌細胞の浸潤に対するアミノ酸の作用
  2.6 筋肉タンパク質合成に対する分岐鎖アミノ酸の作用
  2.7 筋肉タンパク質合成に対する塩基性アミノ酸の作用
  2.8 筋肉組織・細胞によるグルコース取込みに対する分岐鎖および塩基性アミノ酸の作用
  2.9 タウリンの食理作用
  2.10 おわりに

3. 経腸栄養(香川靖雄,佐々木菜美,石黒紀代美,豊田允彦,影山光代)
  3.1 経管栄養の方法と意義
  3.2 蛋白質・エネルギーの適正摂取と科学的根拠
  3.3 蛋白質アミノ酸代謝と経管栄養
  3.4 エネルギー代謝実測
  3.5 蛋白質エネルギー代謝障害(PEM)
  3.6 経管栄養剤
  3.7 適正な長期間の蛋白質エネルギー代謝確保


第6章 機能素材としてのアミノ酸
1. タウリン(清水誠,薩秀夫)
  1.1 はじめに
  1.2 タウリンの生合成
  1.3 タウリンの細胞内への取り込みと排出
  1.4 組織によるタウリン濃度の差異
  1.5 タウリンの機能:浸透圧調節作用
  1.6 タウリンの機能:抗酸化作用と抗炎症作用
  1.7 タウリンの機能:胆汁酸塩の生成
  1.8 タウリンの機能:肝機能に対する作用
  1.9 タウリンの機能:神経系の調節作用
  1.10 タウリンの機能:心臓機能の調節作用
  1.11 タウリンの新しい話題と課題

2. グルタミン酸(鳥居邦夫)
  2.1 はじめに
  2.2 蛋白質摂取のマーカーとしてのグルタミン酸
  2.3 消化器におけるグルタミン酸シグナルシステム
  2.4 わが国におけるうま味文化の形成
  2.5 グルタミン酸は脳機能を調節する中心的アミノ酸
  2.6 消化吸収過程でのグルタミン酸の栄養学的役割
  2.7 おわりに

3. γ-アミノ酪酸(GABA)・テアニン(横越英彦)
  3.1 はじめに
  3.2 γ-アミノ酪酸(GABA)
    3.2.1 GABA摂取と脳内神経伝達物質
    3.2.2 GABA摂取と脳機能(動物実験
    3.2.3 GABA摂取と脳機能(ヒトボランティア試験)
  3.3 テアニン
    3.3.1 テアニン摂取と脳内神経伝達物質
    3.3.2 テアニンとドーパミン放出促進作用
    3.3.3 テアニン摂取と記憶学習能
    3.3.4 テアニンと血圧低下作用
    3.3.5 テアニン摂取とリラクゼーション

4. リジンの抗ストレス/不安効果(鳥居邦夫)
  4.1 はじめに
  4.2 文明化に伴う必須アミノ酸欠乏とストレス
  4.3 必須アミノ酸欠乏に伴うストレスと不安に対する耐性の変化
  4.4 リジン欠乏地帯におけるリジン強化介入試験
  4.5 おわりに

5. カルノシンアンセリン(西村敏英)
  5.1 はじめに
  5.2 カルノシンアンセリンの特徴と分析法
    5.2.1 カルノシンアンセリンの構造と特徴
    5.2.2 カルノシンアンセリンの分析法
  5.3 カルノシンアンセリンの分布
    5.3.1 動物種や組織による分布の違い
    5.3.2 筋肉における変動とその因子
    5.3.3 血中における変動
  5.4 カルノシンアンセリンの吸収と代謝
    5.4.1 カルノシンアンセリンの吸収と動態
    5.4.2 カルノシンアンセリンの合成
    5.4.3 カルノシンアンセリンの分解
  5.5 カルノシンアンセリンの生体調節作用
    5.5.1 抗酸化作用
    5.5.2 緩衝作用
    5.5.3 グリコシル化阻害作用
    5.5.4 その他の生体調節作用

6. グルタチオン(神谷俊一)
  6.1 概要
  6.2 グルタチオンの化学構造と物性
  6.3 食品中のグルタチオン濃度
  6.4 作用メカニズム
    6.4.1 グルタチオンの抗酸化作用とリサイクリング
    6.4.2 解毒作用
  6.5 生理活性
    6.5.1 グルタチオンの多彩な生理活性
    6.5.2 老化とグルタチオン
  6.6 経口投与グルタチオンの吸収性
  6.7 実験例紹介
    6.7.1 GSH経口摂取によりアルコール飲用時の肝障害および酩酊が抑制された
    6.7.2 GSHまたはGSSG経口投与によりアセトアミノフェンによる肝臓GSHレベルの低下が抑制され,肝障害が抑制された
    6.7.3 GSHの経口投与はSTZ誘導高血糖ラットの神経機能低下と腎機能低下を抑制した
  6.8 安定型システインとしてのグルタチオン摂取の意義
  6.9 機能性素材としてのグルタチオンの利用形態

7. オルニチン(柴崎剛)
  7.1 はじめに
  7.2 L-オルニチンの吸収・体内動態・代謝
  7.3 オルニチンの食品中含量と「本草綱目」
  7.4 L-オルニチンによるオルニチン回路の調節
  7.5 L-オルニチン塩と応用分野
  7.6 オルニチンの生理機能
    7.6.1 L-オルニチンと肝臓
    7.6.2 L-オルニチンと抗疲労
    7.6.3 L-オルニチンと肌
    7.6.4 L-オルニチン摂取による一般健常人での体感試験
    7.6.5 L-オルニチンとタンパク合成促進・筋肉・脂肪分解
    7.6.6 L-オルニチンと高齢者栄養
    7.6.7 その他の機能報告
  7.7 L-オルニチンと味覚
  7.8 おわりに

8. グリシンの生物学的機能(稲川健太郎高橋迪雄)
  8.1 はじめに
  8.2 細胞内でのグリシン代謝:生合成及び分解
  8.3 ヒトでのグリシン代謝,体内動態及び忍容性
  8.4 グリシンの生理作用:神経伝達物質としてのグリシン
  8.5 グリシンの睡眠への効果
  8.6 おわりに