MEMS/NEMSの最先端技術と応用展開
技術者・研究者向けの書籍紹介
編 集 : 前田龍太郎 (独)産業技術総合研究所
発刊日 : 2006年6月 ISBN4-902410-08-7 C3054
体 裁 : B5判・285頁
刊行のねらい
1980年代に産声を上げたMEMS (Micro Electro Mechanical systems)技術では圧力センサや加速度センサ等の自動車用センサが実用化された。その後テキサスインスツルメンツ社の微小なミラー素子を利用した映像提示素子やインクジェットプリンタヘッド等が実用化された。90年代後半には光通信応用やバイオ応用の研究開発が活況を呈し、北米を中心にMEMS関連のベンチャー企業の隆盛を見た。その後2000年代初期の景気後退に伴い産業界を中心として研究開発は大きな停滞に見舞われた。MEMS技術は成熟した半導体技術と異なり、いまのところ応用分野がニッチな製品や、立ち上がり時期の製品に限られているために、大企業の目指す規格大量生産の製品が必ずしも多くはないことも停滞の一因である。一方ニッチな応用を目指す中小ベンチャーにとっても製造インフラへの投資をはじめとするリスクやノウハウ、研究開発人材の不足が参入の大きな障壁となっていた。
しかしながらこのMEMSの冬の時代に、ようやく雪解けの気配が感じられる。まず製造インフラの整備状況である。製造インフラの充実のために、2003年より始まった「フォーカス21プロジェクト」において経済産業省はMEMSファンドリの整備に乗り出した。ファンドリとは製造設備やノウハウをもたないユーザーに代わりMEMS製造委託を専業とする業者である。また陳腐化した半導体ラインを転用することで多くの企業がMEMSファンドリに参入し始めている。2004年からはMEMSの設計人材の充実や製造プロセスデータベース整備に関するプロジェクトも始まった。とかくコストのかかるMEMS製造に対する新しいプロセスの提案もされている。ナノインプリントやデスクトップ加工がそれである。前者は成型加工によって製造コストを大きく下げることを目指しており、後者は製造装置のマイクロ化によるインフラコストの低減を目指している。
上記の製造環境の改善に加えて、規格大量生産の製品のニーズも見えてきた。携帯電話をはじめとする無線通信機器の発展である。第3世代以降の携帯電話では通常の800MHzの周波数帯に加え、より高い周波数帯での運用が計画されている。そこで高周波で用いられるRF-MEMS部品(Radio Frequency MEMS)が注目を浴びている。エレクトロニクスで製造された高周波部品(スイッチ、フィルター等)にくらべ機械的動作を行うMEMS部品は高周波において格段に高い性能が期待されているからである。またMEMSは他のユビキタス機器に用いられるセンサやアクチュエータの小型化や低コスト化における最重要技術として、再び大きく脚光を浴び始めている。微小なセンサを空間に多数配置し、通信機能も持たせることにより、広範な空間の情報を得ることができるセンサネットワークは将来の大きな市場をもつだけでなく、安心で安全、快適な社会を実現するキーの技術となることが期待されている。
MEMSの今後の方向として、2つの選択肢があるといわれている。国からの研究開発資源の豊富なバイオやナノテクに進むか、MEMS技術を活用し、光や無線の通信用デバイスの開発に参入してビジネスマネーを狙うかである。筆者も含めて我が国の多くの大学や公的機関の研究者は、これまでビジネスで成功するメガヒットをMEMSが生み出すのは短期的には困難であるとの見解をとり、ナノテクに進む傾向がなかったとはいえない。金の儲かりそうな分野は民間企業にまかせるという論理が支配的なことも要因として考えられる。しかしながら大手の民間企業といえども高価な設備と多くのノウハウを必要とするMEMS分野に、簡単に参入できるとは限らない。よしんば設備はすぐに購入ができるとしても、MEMS技術者は一朝一夕で養成できるものではない。立ち上がり時期の新しい技術は中小ベンチャーが参入するのにもっとも自然なやり方と考えられる。
本書はこれからMEMS分野に参入を考えている技術者や経営者を想定して書かれている。本書がきっかけとなり、今後とも産官学の連携のもと、ベンチャーや野心的な企業がMEMSのビジネス化に参入されることを期待したい。
第1章 MEMS/NEMS技術の最先端の動向
1 はじめに
2 MEMS用製造装置
3 光MEMS
4 RF-MEMS
5 センサMEMS
6 バイオMEMS
7 その他のMEMS
8 おわりに
第2章 MEMS/NEMS技術の特徴
1 MEMS/NEMSという語
2 半導体製造技術の特徴
3 MEMS設計の難しさ
4 MEMS特有の材料、製造工程
5 犠牲層エッチングとダイシング
6 おわりに
第3章 MEMS/NEMSの製造技術と各種製造装置、材料開発
1 エッチング装置
1.1 デバイス構造に対するエッチングの役割
1.2 ドライプロセス装置とボッシュプロセス
1.3 プロセスパラメーターが持つ意味合い
1.3.1 プロセスガスと流量、及びサイクルタイム
1.3.2 ソースプラズマ出力
1.3.3 下部電極出力
1.3.4 プロセスチャンバー内圧力
1.3.5 基板冷却温度
1.4 最新プロセス
1.4.1 ALCATEL“SHARP”
1.4.2 テーパーエッチング
2 アライナ、MEMS用ステッパ
2.1 はじめに
2.2 光露光(フォトリソグラフィー)プロセス
2.3 アライナ
2.3.1 原理と特徴
2.3.2 装置
2.3.3 露光結果
2.4 ステッパの原理
2.4.1 原理と特徴
2.4.2 装置
2.4.3 露光結果
2.5 おわりに
3 スプレーコータ
3.1 3次元形状のレジスト塗布
3.2 応用分野
3.3 スプレーコート装置の概要
3.4 レジスト、希釈液の選定
3.5 塗布条件の最適化
3.6 試作結果例
3.7 その他の問題点
3.8 他材料への展開
3.9 スプレーコータのメーカーと製品
4 ナノインプリント装置
4.1 はじめに
4.2 ナノインプリントプロセス
4.2.1 光ナノインプリント
4.2.2 熱ナノインプリント
4.3 ナノインプリント装置
4.3.1 光(UV)ナノインプリント装置の基本構成
4.3.2 熱ナノインプリント装置の基本構成
4.3.3 ナノインプリント装置の各種方式と特徴
4.4 型(モールド)
4.5 おわりに
5 圧電材料・アクチュエータ
5.1 はじめに
5.2 PZTの圧電定数
5.3 PZTアクチュエーターの特性
5.4 PZT圧膜の成膜技術
5.5 PZT薄膜の成膜技術
5.6 PZTアクチュエーターの作製法と応用
6 形状記憶合金
6.1 はじめに
6.2 形状記憶合金薄膜アクチュエータの特徴
6.3 形状記憶合金薄膜の作製
6.4 Ti-Ni形状記憶合金薄膜の特性
6.5 Ti-Ni-X三元系合金薄膜の特性
6.6 形状記憶合金薄膜を使ったアクチュエータ
6.7 おわりに
7 接合・ボンディング
7.1 はじめに
7.2 ウェハ接合の種々の方法
7.2.1 中間材を用いる方法
7.2.2 陽極接合法
7.2.3 ウェハ直接接合法
7.2.4 表面活性化法
8 ナノポーラスシリコン
8.1 はじめに
8.2 nc-PS層の作製
8.3 nc-PS層の機能
8.4 可視域発光および光集積
8.5 弾道電子放出と応用
8.6 超音波発生
8.7 バイオ応用
8.8 おわりに
9 光る微粒子
9.1 はじめに
9.2 発光微粒子の開発動向
9.3 応力発光微粒子
9.4 発光微粒子の合成とその特性
9.5 新規なセンシング法としての応用
9.6 マイクロ・ナノ計測への展開
第4章 MEMS/NEMSの光および無線通信への応用
1 通信応用
1.1 MEMS的な光学変調と光ファイバ通信への応用
1.2 光クロスコネクトへの応用
1.2.1 MEMS光スイッチの必要性
1.2.2 2次元MEMS光スイッチ
1.2.3 3次元MEMS光スイッチ
1.2.4 MEMS光スイッチへの機能の集積化
1.3 MEMS技術による小規模光コンポーネント
1.4 光MEMSに見られる新技術
2 映像提示応用
2.1 DMD
2.2 GLV
2.3 マイクロミラー走査型
3 共焦点顕微鏡
3.1 はじめに
3.2 走査型共焦点レーザ顕微鏡用MEMS光スキャナ
3.2.1 主な仕様
3.2.2 基本構成及び原理
3.2.3 ヒンジ材料と加工技術
3.2.4 特性評価
3.3 スキャナ・オン・スキャナ方式の二次元スキャナと走査型共焦点レーザ顕微鏡の小型化
3.3.1 走査型共焦点レーザ顕微鏡の小型化と二次元スキャナの必要性
3.3.2 スキャナ・オン・スキャナタイプの二次元スキャナ
3.3.3 開発したスキャナ・オン・スキャナと評価結果
3.4 おわりに
4 光応用マイクロセンサ
4.1 はじめに
4.2 マイクロ変位センサ
4.2.1 モノリシック集積マイクロエンコーダ
4.2.2 ハイブリッド集積マイクロエンコーダ
4.2.3 可動回折格子利用変位センサ
4.2.4 集積レーザ変位センサ
4.2.5 セルフミキシングを利用したマイクロセンサ
4.2.6 メカニカル波長可変レーザ
4.3 マイクロ振動子センサ
4.4 光トラッピングと変位センサを応用した微小力測定センサ
4.5 おわりに
5 フォトニック素子
5.1 はじめに
5.2 ブラッグミラーとファブリ・ペロフィルタ
5.3 リング導波路共振器
5.4 回折格子デバイス
5.4.1 構造と回折
5.4.2 サブ波長格子による反射防止
5.4.3 サブ波長周期可変格子
5.5 フォトニック結晶の制御
5.6 近接場光プローブ技術
5.7 おわりに
6 光応用バイオセンサ
6.1 はじめに
6.2 DNA蛍光検出
6.3 走査型共焦点顕微鏡
6.4 グルコースモニタのための旋光センサ
6.5 光ファイバー血圧計
6.6 脈波センサ、パルスオキシメータ
6.7 OCT(光コヒーレンストモグラフィ)
6.8 光MEMSを用いた血流センサ
7 光マニピュレーション
7.1 はじめに
7.2 光マニピュレーションの原理
7.3 光マニピュレーションの応用
7.3.1 放射圧による回転制御
7.3.2 角度位置決め
7.3.3 細胞操作と微小力センシング
7.4 おわりに
8 液晶ディスプレー用照明
8.1 はじめに
8.2 リバーシブルライトの概要
8.3 バックライト機能を実現するための要素技術
8.3.1 ベクター放射結合理論
8.3.2 ダブルプリズム技術
8.4 フロントライト機能を実現するための要素技術
8.4.1 ナノプリズムアレー技術
8.4.2 ハイブリッド集積技術
8.5 超微細複製加工技術
8.6 おわりに
9 無線通信への応用
9.1 はじめに
9.2 RF-MEMSの集積化応用の基礎検討
9.2.1 RF-MEMSスイッチの可変フィルタへの応用
9.2.2 3-バンド・共用パワーFET実現へのRF-MEMSスイッチの応用
9.3 RF-MEMSの実用化へ向けての動向
9.3.1 フェーズシフター
9.3.2 自動車搭載長距離レーダ(77GHZ)
9.3.3 RF-MEMSスイッチのUltra Wideband応用
9.4 RF-MEMSの共通課題
9.4.1 低駆動電圧RF-MEMSスイッチの開発動向
9.4.2 RF-MEMSスイッチの高速化開発動向
9.4.3 高信頼性の確保?現状と対策
第5章 MEMS/NEMSのセンサへの応用
1 加速度センサ
1.1 はじめに
1.2 原理
1.3 ひずみ抵抗型
1.4 静電容量型
1.5 熱型
1.6 今後
2 赤外線センサ
2.1 はじめに
2.2 熱型赤外線センサとMEMS技術の役割
2.3 抵抗ボロメータ方式
2.4 SOIダイオード方式
2.5 その他の方式
2.6 おわりに
3 においセンサ
3.1 はじめに
3.2 各種「におい」センサの原理
3.2.1 酸化物半導体式ケモセンサ
3.2.2 水晶振動子式ケモセンサ
3.2.3 表面プラズモン共鳴式ケモセンサ
3.3 MEMS技術を駆使した「におい」センサシステム
3.4 e-Noseシステムの開発およびその応用
4 センサネットワーク
4.1 はじめに
4.2 デバイス、システム技術
4.3 無線通信技術
4.4 おわりに
5 微小力センサ
5.1 はじめに
5.2 AFMと微小力センサ
5.3 AFM用集積型微小力センサ
5.3.1 ピエゾ抵抗効果型マイクロカンチレバー
5.3.2 圧電マイクロカンチレバー
5.3.3 静電容量型マイクロカンチレバー
5.4 微小力センサの比較
5.5 おわりに
第6章 MEMS/NEMSのエネルギーへの応用
1 マイクロ燃料電池システム
1.1 はじめに
1.2 DMFC
1.2.1 携帯機器用DMFCのシステム構成と特徴
1.2.2 携帯機器用DMFCのためのマイクロ燃料バルブ
1.3 燃料改質器付PEFC
1.3.1 燃料改質器付PEFCのシステム構成と特徴
1.3.2 MEMS技術を用いた燃料改質器
1.3.3 マイクロ燃焼器への混合気供給デバイス
1.4 MEMS技術を用いたマイクロ燃料電池
1.5 おわりに
2 マイクロガスタービン
2.1 はじめに
2.2 マイクロガスタービンの研究
2.3 二次元マイクロガスタービン
2.4 マイクロ燃焼器
2.5 空気駆動エアタービン
2.6 おわりに
3 宇宙応用
3.1 はじめに
3.2 X線回折格子
3.3 X線マイクロカロリメータ検出器
3.4 マイクロX線反射鏡
第7章 MEMS/NEMSのバイオ・化学への応用
1 バイオMEMS
1.1 はじめに
1.2 スケーリング則
1.3 マイクロ流体工学(microfluidics)
1.4 ラボ・オン・チップ(Lab-on-a-chip)
1.5 大規模集積への潮流
1.6 蛍光検出の小型・集積化と超並列化
1.7 おわりに
2 マイクロ流体デバイスの実装
2.1 はじめに
2.2 デバイスと外部の接続の重要性
2.3 チップの入出力端子の形成
2.3.1 実験用チップの端子形成方法
2.3.2 平面接続ソケット方式
2.3.3 縦型流体接続ソケットの構造
2.4 マイクロ流体デバイスの封止
2.4.1 メタル封止
2.4.2 セラミック封止
2.5 モジュール・レベル・パッケージ
2.6 実装
2.7 解決すべき課題と進歩の方向
第8章 MEMS/NEMSの加工・試作・ファンドリーサービス
1 全体の動向
2 MEMS/NEMSの市場特性とファンドリーサービスの必要性
2.1 MEMSファンドリーネットワーク誕生の経緯
2.2 MEMSファンドリーサービス産業委員会の活動
2.2.1 公知活動
2.2.2 産官学連携によるMEMS産業推進課題の議論
2.2.3 サービスの向上努力
2.3 産業委員会メンバーの簡単な紹介
3 おわりに
第9章 MEMS/NEMSの技術的・体制的課題
1 はじめに
2ファンドリ事業及び人材育成事業
2.1 サービスの特徴
2.2 試作事例
2.2.1 ピエゾMEMS
2.2.2 高アスペクト比加工とナノインプリント
3 コストの低いプロセスの開発
3.1 微細成形
3.2 MEMS実装
3.3 デスクトップナノ製造装置
第10章 海外企業・研究機関のMEMS/NEMS技術の動向
1 Transducers ’05における技術動向
2 MEMS 2005における技術動向
第11章 MEMS/NEMSの市場規模と予測
1 はじめに
2 市場規模見積りと予測の方法
3 産業分野ごとの市場分析について
4 世界市場について