パワーエレクトロニクスの新展開

技術者・研究者向けの専門書籍紹介

パワーエレクトロニクスの新展開

発刊日 2009年9月 ISBN 978-4-7813-0137-2
体 裁 B5判 197ページ


発刊にあたって
温室効果ガス排出に伴う地球温暖化問題は,人類が解決すべき21世紀最大の課題のひとつである。資源エネルギー庁が2005年に作成した「超長期エネルギー技術ビジョン」では,炭酸ガスなどの温室効果ガス放出を2050年までに半減するには,最終エネルギーの電力化率を現在の20%から50%にする必要があるとしている。最終エネルギーの半分を電力で供給する施策を実施することで,現行技術で推移した場合に予測される最終エネルギー消費を40%以上抑制することを試算している。これによりエネルギーの安定供給,生活環境の維持及び持続的な成長が相互に鼎立する高度電力化社会の実現を目指している。
 高度電力化社会では,電力供給と消費の全体最適化が必須条件であり,電気エネルギー有効利用に関わるパワーエレクトロニクスが「どこでも,だれにも,いつでも」使われるユビキタスな存在となることが予測される。経済産業省が2007年度に発表した「Cool Earth革新技術計画」では,2050年までに温室効果ガス放出を半減するために必要な「21の重要技術」を選択し,2030年までの実用化を狙っている。この中で分野横断技術としてパワーエレクトロニクスが取り上げられており,公的文書で初めてその重要性を裏付けている。
 半導体バイスの集積化技術の発展により,マイクロエレクトロニクス(ME)システムの情報処理密度(ビット密度)は過去30年で約5桁近く向上し,個別部品による回路技術では不可能だった大規模なMEシステムがワンチップ化した。その結果,MEシステムは文字通りユビキタスな存在になっている。パワーエレクトロニクスの進歩に目を向けると,電力変換装置の出力パワー密度は過去30年で2桁以上も向上し,応用分野や電力容量にもよるが,現在は平均で10W/cm3に迫っている。今後,パワーエレクトロニクスがより一層,ユビキタスな存在となって行くためには,MEシステムがビット密度の増加とそれに伴うビット当りの単価の大幅低減を実現したように,出力パワー密度の大幅な増加と,それによる電力変換装置のワット当りの単価の低減を可能にする技術の発展がその鍵を握っている。
 出力パワーを決定する電力変換装置の体積を占めている大きな要因は,パワーデバイスの冷却装置とインダクタ,トランス,コンデンサなどの受動部品の体積である。電力変換装置の変換効率を向上させながら,これらの体積を縮小するには,パワーデバイスの低損失化とスイッチング速度の向上が不可欠である。また,損失低下を損なう事なく高温動作できるデバイスも重要である。低損失化や高温動作は冷却装置体積を縮小する上で重要なデバイス性能である。また,スイッチング速度の向上は受動部品の小型化に大きく寄与する。過去,パワーエレクトロニクス装置の高効率化と出力パワー密度の向上を果たす上で重要な役目を果たしてきた,シリコンのパワーデバイスの性能向上は材料限界が顕在化しつつあり,材料限界を突破する視点から,SiC,GaN,ダイヤモンドを使ったパワーデバイスの研究開発が盛んである。
 このような状況を念頭に,本書『パワーエレクトロニクスの新展開』は,次世代パワーエレクトロニクスのキイデバイスとなるワイドバンドギャップ半導体による先進パワーデバイスを軸に編集された。第1章はSiC,第2章はGaN,第3章はダイヤモンド,最後の第4章は,パワーエレクトロニクスの2大応用分野であるモータと電源の視点から応用の記述がなされている。高度電力化社会の本格的な進展に向けてユビキタスパワーエレクトロニクスの浸透を加速する多様な応用の開拓に本書が役立つことを期待したい。

(「巻頭言―パワーエレクトロニクス応用への期待―」より)

(独)産業技術総合研究所 大橋弘


書籍の内容
第1章 SiC

1. SiC―可能性とその特徴―(木本恒暢)
  1.1 はじめに

  1.2 SiCのポリタイプ現象と結晶成長技術の概要

  1.3 SiCの物性

  1.4 SiCパワーデバイスの特徴

2. SiC単結晶基板の高品質化技術(大谷昇)
  2.1 はじめに

  2.2 SiC単結晶基板製造技術の概要

  2.3 SiC単結晶基板研磨技術の高品質化

  2.4 SiC単結晶基板中の結晶欠陥

  2.5 SiC単結晶基板の高品質化技術

  2.6 おわりに             

3. SiCエピタキシャル薄膜の多形制御技術(児島一聡)
  3.1 はじめに

  3.2 多形制御の基礎(オフ基板を用いたステップ制御エピタキシー)

  3.3 多形制御の新展開

    3.3.1 背景

    3.3.2 Just基板上のエピタキシー技術

  3.4 おわりに

4. SiCパワーMOSFETの開発(福田憲司)
  4.1 SiCパワーMOSFET製造のための要素プロセスの現状と課題

    4.1.1 ソース/Pウエル形成用高温イオン注入/活性化アニール技術

    4.1.2 SiCとソース/ドレイン電極間のオーミックコンタクト形成技術

    4.1.3 MOS界面形成技術

    4.1.4 ゲート酸化膜の長期信頼性

  4.2 SiCパワーMOSFETの開発状況

  4.3 SiCパワーMOSFETの応用

5. Super-SBD(四戸孝)
  5.1 超接合構造と浮遊接合構造

  5.2 Super-SBDの基本構造

  5.3 4H-SiC Super-SBDの設計技術

  5.4 Super-SBDを実現するプロセス技術

  5.5 4H-SiC Super-SBD試作結果

6. SiC-MOSFETの信頼性および動作時のノイズ低減(藤平龍彦,岩室憲幸)
  6.1 はじめに

  6.2 なぜSiCが注目されているのか

  6.3 SiC-MOSFETバイスならびにモジュールの課題

  6.4 まとめ

7. 高性能4H-SiC SBD,MOSFETの開発と高温動作SiC IPM(中野佑紀,三浦峰生,川本典明,大塚拓一,奥村啓樹,中村孝)
  7.1 4H-SiC SBD

    7.1.1 300A大面積4H-SiC SBD

  7.2 SiC MOSFET

    7.2.1 4H-SiC DMOSデバイスプロセス

    7.2.2 4H-SiC DMOS電気的特性

    7.2.3 ゲート酸化膜の信頼性 

  7.3 4H-SiCトレンチMOSFET

    7.3.1 4H-SiCトレンチMOSFETバイスプロセス

    7.3.2 ドレイン電流の面方位依存性 

    7.3.3 4H-SiCトレンチMOSFET電気的特性

  7.4 SiC IPM

  7.4.1 高温動作SiC IPM

  7.5 まとめ

8. SiC接合型/静電誘導型(SiC-JFET/SIT)トランジスタ(田中保宣)
  8.1 SiC-JFET/SITの開発経緯

  8.2 SiC-JFET/SITの各種構造

  8.3 SiC-JFET/SITの開発状況

    8.3.1 表面ゲート型

    8.3.2 リセスゲート型

    8.3.3 埋込ゲート型

  8.4 SiC-JFET/SITの負荷短絡耐量

  8.5 SiC-JFET/SITのノーマリオフ化

  8.6 今後の課題

第2章 GaN
1. GaN―可能性とその特徴―(江川孝志)
  1.1 はじめに

  1.2 ワイドバンドギャップ半導体と性能指数

  1.3 GaNの現状と課題

  1.4 Si基板上へのGaN層ヘテロエピタキシャル成長

  1.5 まとめ

2. 窒化物半導体の特性と評価(井手利英)
  2.1 結晶構造

  2.2 窒化物半導体の電気的性質

  2.3 混晶

  2.4 分極

  2.5 ヘテロ構造と2次元電子ガス

  2.6 耐圧

3. Si基板上AlGaN/GaNパワーデバイス田中毅
  3.1 はじめに

  3.2 低コストSi基板上AlGaN/GaNパワーデバイス

  3.3 ノーマリオフ動作ホール注入型トランジスタ―Gate Injection Transistor―

  3.4 まとめ

4. 超高耐圧AlGaN/GaNパワーデバイス田中毅
  4.1 はじめに

  4.2 超高耐圧化デバイス技術

  4.3 超高耐圧AlGaN/GaNトランジスタの特性

  4.4 まとめ

5. 薄層AlGaN構造を用いたGaNパワーデバイス(池田成明)
  5.1 概要

  5.2 はじめに

  5.3 ノーマリオフFETの開発

    5.3.1 GaN系ノーマリオフFETのこれまでの報告

    5.3.2 ノーマリオフの閾値制御

    5.3.3 薄層AlGaNを用いたFETの素子作製プロセス

    5.3.4 素子評価結果

  5.4 薄層AlGaN構造のFESBD(Field Effect Schottky Barrier Diode)への展開

    5.4.1 FESBDの高耐圧低オン電圧化のメカニズム

    5.4.2 素子の作製方法

    5.4.3 FESBDの素子特性評価結果

  5.5 今後の展望

  5.6 おわりに

第3章 ダイヤモンド半導体
1. 材料(鹿田真一)
  1.1 ダイヤモンドの分類

  1.2 物性

    1.2.1 基礎物性

    1.2.2 デバイス関連物性

  1.3 ウェハ

    1.3.1 合成方法

    1.3.2 ウェハ

  1.4 コンタクト電極

    1.4.1 オーミック電極

    1.4.2 ショットキー電極

  1.5 プロセス

    1.5.1 ウェットプロセス

    1.5.2 ドライプロセス

  1.6 材料から見たデバイス指標

2. デバイス(嘉数誠)
  2.1 はじめに―現状と課題―

  2.2 ダイヤモンド・パワーダイオード

  2.3 ダイヤモンド・ダイオードの高温動作

  2.4 デルタドープ・ダイヤモンドFET

  2.5 水素終端ダイヤモンドFET

    2.5.1 水素終端ダイヤモンドFETの直流特性

    2.5.2 水素終端ダイヤモンドFETの高周波小信号特性

    2.5.3 水素終端ダイヤモンドFETの自然形成ゲート絶縁層

    2.5.4 水素終端ダイヤモンドFETの高周波大信号特性

  2.6 まとめ

第4章 応用編
1. 次世代モーダルシフト(内藤治夫)
  1.1 自動車(HEV,EV)

    1.1.1 磁石材料の進歩

    1.1.2 磁石材料の問題点

    1.1.3 ACサーボモータの利点

    1.1.4 磁束弱め制御

    1.1.5 IPM形ACサーボモータ

    1.1.6 EV,HEV駆動時の問題点

    1.1.7 HEVの駆動源の構成

  1.2 鉄道

  1.3 モーダルシフトの今後

2. 情報通信システム用電源(二宮保)
  2.1 はじめに

  2.2 情報通信システムにおける分散給電システム

  2.3 スイッチング電源の高性能化技術

  2.4 将来動向