農薬からアグロバイオレギュレーターへの展開

技術者・研究者向けの専門書籍紹介

農薬からアグロバイオレギュレーターへの展開

発刊日 2009年12月 ISBN 978-4-7813-0187-7
体 裁 B5判 264ページ


発刊にあたって
 20世紀に科学技術の発展が果した功績は大であるが,一方21世紀に諸々の問題を持ち越している。いわく,環境,生態系,エネルギー,食料,人口,医療,貧富の格差などの問題である。農業,農学研究者の使命は第一義的には食料問題,そして付随する諸問題の解決にあるが,農業の実際,農法に関しては,相対峙し,衝突,矛盾する意見が多々あるのが現状である。その一部をとりあげてみると,有機農法に対する農薬・化学肥料を使う慣行農法,病害虫雑草の化学防除に対する生物防除,遺伝子組換え作物に対する慣行作物の問題などである。

 農学関係者は,専門化しそれぞれの分野での問題解決を目指している。化学防除,生物防除,有機栽培,GM作物をそれぞれ目指すのも良い。Bloom,where you are planted.植えられたところで花を咲かせ,である。しかし麗しき庭づくりにはそれぞれの花がしかるべき位置に配置されねばならない。一見対立する諸々の農法・主張の適用場面のすみわけを考えるべきである。総合的有害生物管理IPM,総合作物管理,環境保全型農業,持続可能型農業といわれるものがこれにあたるであろう。

 本書では,これらの技術的基盤である化学農薬,生物農薬,遺伝子組換え,製剤,また新農薬,新防除法の発想源となりうる天然物,情報化学物質,アグロゲノミックスをも取り上げた。

 農薬の歴史は,農薬の欠点を認識し,これを克服する努力の積み重ねであった。「己を省みる者は,事に触れて皆薬石となる。その悪を攻めて,人の悪を攻むることなかれ」。けだし,古人の至言である。

 農薬に一応対応する英語はPesticidesであるが,pestは人ならびに人に有用な生物に有害な生物をさし,cideはラテン語のkillerを意味するcidaに由来する。しかし農薬には殺さずしてpestを防除するもの,作物の生育促進,抑制,抵抗性増進をもたらすものもある。pest防除には各種の生物も使えれば,適切な遺伝子を導入することでpestのみならず,諸々の収穫制限要因を克服することができる。このような機能を持つものに,農薬というイメージをこえた名称として,アグロバイオレギュレーターを用いた次第である。

(「はじめに」より)

2009年12月 山本 出 


第1章 農薬研究の全般的動向
(クロード ランベール,星野敏明)
  1.はじめに
  2.技術革新の必要性
  3.開発の動向
    3.1 新しい分子構造を有する農薬の発見
    3.2 作用機構および抵抗性
    3.3 新技術の導入と開発
    3.4 非生物学的な要因に対して
    3.5 病害虫や雑草の突発的発生に対する対応
    3.6 製剤技術と施用法による効果発現の最大化
    3.7 遺伝子組換え作物による食料増産の可能性
  4.規制
  5.おわりに

第2章 世界の農業生産と農薬市場の動向(郄山千代蔵)
  1.はじめに
  2.農業生産の現状と今後
   2.1 世界の状況
    2.1.1 最近の状況
    2.1.2 今後の予測
   2.2 日本の状況
  3.農薬市場
   3.1 世界の市場
    3.1.1 全体的状況
    3.1.2 用途別状況
   3.2 日本の市場
  4.おわりに

第3章 殺菌剤の動向(真鍋明夫,郄野仁孝,永野栄喜
  1.はじめに
  2.2003年以降の殺菌剤開発の動向と上市,開発薬剤
    2.1 Complex III阻害剤
    2.2 Complex II阻害剤の新展開
    2.3 べと病・疫病防除剤の増加
    2.4 うどんこ病防除剤
    2.5 植物の全身抵抗性付与剤
    2.6 その他の上市,開発剤
  3.ターゲット(作用機構)からみた殺菌剤の動向
    3.1 核酸合成
    3.2 有糸分裂および細胞分裂
    3.3 呼吸
    3.4 アミノ酸およびタンパク質合成
    3.5 シグナル伝達
    3.6 脂質および膜合成
    3.7 膜ステロール合成
    3.8 グルカン合成
    3.9 細胞壁でのメラニン合成
    3.10 宿主防御誘導
    3.11 不明
    3.12 マルチサイト接触活性
  4.イネいもち病抵抗性品種のマルチライン栽培の進展
  5.おわりに

第4章 殺虫剤の動向(波多野連平,山本敦司)
  1.はじめに
  2.ネオニコチノイド系剤
    2.1 ネオニコチノイド系剤
    2.2 ネオニコチノイドの新規展開
    2.3 ネオニコチノイドのミツバチに対する影響
    2.4 害虫のネオニコチノイドに対する抵抗性
    2.5 ネオニコチノイドの作用機構
  3.リアノジン受容体作動薬
    3.1 リアノジン受容体作動薬
    3.2 ジアミド系化合物
    3.3 リアノジン受容体
    3.4 ジアミド系化合物の作用機構
    3.5 ジアミド系化合物の害虫に対する作用特性
    3.6 安全性
    3.7 日本における開発状況
    3.8 抵抗性管理
  4.ピリダリル(pyridaryl)
  5.ピリフルキナゾン(pyrifluquinazon)
  6.メタフルミゾン(metaflumizone)
  7.フロニカミド(flonicamid)
  8.イミシアホス(imicyafos)
  9.スピロテトラマト(spirotetramat)
  10.スピネトラム(spinetoram)
  11.ジベンゾイルヒドラゾン系剤
  12.レピメクチン(lepimectin)
  13.殺虫剤抵抗性害虫現状
  14.最近の特許化合物
   14.1 リアノジン受容体作動薬タイプ特許
   14.2 その他最近の特許化合物
    14.2.1 置換イソキサゾリンタイプ
    14.2.2 アクリロニトリルタイプ
    14.2.3 イミノプロペン(チオイミデート)タイプ
    14.2.4 ピペリジンタイプ
    14.2.5 キノリンタイプ
    14.2.6 スピロインドリンピペリジンタイプ
  15.おわりに
<コラム> アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の毒性学についての最近の話題(奥野泰由)

第5章 殺ダニ剤の動向(瀧井新自)
  1.はじめに
  2.最近の開発剤
   2.1 Cyflumetofen(試験コード:OK-5101)
   2.2 Spiromesifen(試験コード:BCI-033)
   2.3 Cyenopyrafen(試験コード:NC-512)
   2.4 エコピタ(R)(試験コード:YE-621)
   2.5 NNI-0711フロアブル
   2.6 その他の殺ダニ剤
    2.6.1 HNPC-A 3066
    2.6.2 6-[(Z)-10-Heptadecenyl]-2-hydroxybenzoic acid
  3.最近のハダニ抵抗性研究
  4.おわりに
<コラム> G-タンパク質共役型受容体と害虫防除―生体アミン受容体を例として―(太田広人)

第6章 除草剤および植物生育調節剤の動向(山口幹夫,花井涼,清水力)
  1.はじめに
  2.アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACCase)阻害型除草剤
    2.1 4-アリールオキシフェノキシプロピオン酸系ACCase阻害剤
    2.2 シクロヘキサンジオン・オキシム系ACCase阻害剤
    2.3 ジオン系ACCase阻害剤
  3.アセト乳酸合成酵素(ALS)阻害型除草剤
    3.1 スルホニルウレア系ALS阻害剤
    3.2 トリアゾリノン系ALS阻害剤
    3.3 トリアゾロピリミジン系ALS阻害剤
    3.4 ピリミジニルサリチル酸系ALS阻害剤
    3.5 イミダゾリノン系ALS阻害剤
    3.6 その他のALS阻害型除草剤
    3.7 ALS阻害型除草剤の作用点研究
  4.4-ヒドロキシフェニルピルビン酸(HPPD)阻害型除草剤
    4.1 HPPD阻害型除草剤の分類と開発剤
    4.2 シクロヘキサンジオン系HPPD阻害剤
    4.3 ピラゾール系HPPD阻害剤
    4.4 ビシクロ系HPPD阻害剤
    4.5 イソオキサゾール系HPPD阻害剤・その他
    4.6 HPPD阻害型除草剤の作用点研究
  5.プロトポルフィリノーゲン-IXオキシダーゼ(PPO)阻害剤除草剤
    5.1 ジフェニルエーテル系PPO阻害剤
    5.2 ジアリル系PPO阻害剤
    5.3 ピラゾール系PPO阻害剤周辺
    5.4 PPO阻害型除草剤の作用点研究
  6.超長鎖脂肪酸伸長酵素(VLCFAE)阻害型除草剤
    6.1 最近の開発剤
    6.2 VLCFAE阻害型除草剤の作用点研究
  7.フィトエンデサチュラーゼ(PDS)阻害型除草剤
  8.光合成阻害剤
    8.1 最近の開発剤
    8.2 最近の特許動向
  9.その他
  10. 薬害軽減剤(セーフナー)の動向
  11.植物生長調節剤の動向
  12.除草剤の作物雑草間選択性
  13.除草剤抵抗性(耐性)
  14.除草剤耐性作物
  15.作用点研究を基盤とする除草剤研究の今後の方向性
<コラム> ストリゴラクトンの植物成長調整剤としての応用可能性(米山弘一)

第7章 製剤・施用技術の動向(川島和夫)
  1.はじめに
  2.農薬製剤の種類と剤型推移
  3.農薬製剤における界面活性剤の機能と役割
  4.主要な農薬製剤の課題と新規製剤への移行
    4.1 粒剤
    4.2 粉剤
    4.3 乳剤
    4.4 水和剤
    4.5 顆粒水和剤
    4.6 フロアブル
  5.新規の製剤・施用技術
    5.1 水稲用除草剤
    5.2 水面展開剤
    5.3 育苗箱処理
    5.4 マイクロカプセル
  6.アジュバント技術
    6.1 展着剤の分類と機能
    6.2 アジュバントの活用事例
    6.3 アジュバントの作用機構
  7.おわりに

第8章 生物農薬の動向
  1.天敵農薬(根本久)
   1.1 はじめに
   1.2 わが国における天敵農薬の変遷
   1.3 欧米における天敵農薬の変遷
   1.4 天敵の製品化と品質基準
   1.5 世界の既存製剤の動向
    1.5.1 寄生蜂
    1.5.2 葉上徘徊性捕食者
    1.5.3 捕食性ダニ類
  2.微生物農薬(土井清二,藤森嶺)
   2.1 はじめに
   2.2 微生物農薬の歴史
   2.3 微生物農薬の開発
   2.4 微生物農薬の市場
   2.5 日本微生物防除剤協議会設立と微生物農薬の普及促進
   2.6 微生物農薬の開発の意味
    2.6.1 微生物農薬の商業化の一例
    2.6.2 生物学的技術の貢献

第9章 天然物の動向(藤井義晴)
  1.天然物のアレロケミカルとしての意義
  2.キノン類
    2.1 クルミに含まれるユグロン
    2.2 ソルガムが放出するソルゴレオ
    2.3 オオイタドリに含まれるエモジン
  3.ベンツオキサジノイド類
  4.ベータトリケトン類
  5.植物生長促進物質レピジモイド
  6.新しい植物ホルモン-ストリゴラクトン
  7.核酸系のアレロケミカル
  8.硝酸化成を抑制するアレロケミカル
  9.カテコール化合物
    9.1 ムクナのL-DOPA
    9.2 ソバのルチン
  10. シアナミド
  11.シス桂皮酸誘導体
  12.ジチオラン化合物
  13.トリテルペノイドサポニン
  14.天然物としてのアレロケミカルの利用

第10章 情報化学物質の植物保護利用(安藤哲)
  1.情報化学物質:セミオケミカル
  2.植食者-植物-天敵間の化学交信
  3.微生物の化学交信
  4.昆虫のフェロモン
    4.1 化学構造の多様性
    4.2 蛾類害虫の交信撹乱による防除
    4.3 性フェロモンによる大量誘殺
    4.4 フェロモンの生合成とその制御
    4.5 アンテナでの受容機構

第11章 遺伝子組換え作物の動向
(内田健,山根精一郎)
  1.はじめに
  2.モンサント・カンパニーの概要
  3.GM作物の普及と現状
  4.現在,商品化・流通されている主なGM作物
    4.1 除草剤耐性作物
    4.2 害虫抵抗性作物
  5.GM作物が環境と経済に与えたインパク
  6.GM作物のリスクと,そのリスク管理
    6.1 ラウンドアップ(R)除草剤抵抗性雑草発生に対するリスク管理
    6.2 Btタンパク質に抵抗性を有する害虫発生に対するリスク管理
  7.新たな形質を持つGM作物と持続可能な農業
    7.1 乾燥耐性トウモロコシ
    7.2 窒素有効利用トウモロコシ
    7.3 高収量大豆
    7.4 Vistive(R)(ビスティブ)大豆,高オレイン酸大豆
    7.5 ステアリドン酸産生大豆
  8.おわりに

第12章 アグロゲノミクスと農薬(須藤敬一)
  1.はじめに
  2.ゲノム創農薬の概要
    2.1 従来の農薬開発とゲノム創農薬の比較
  3.ゲノム創農薬の手法―DMI剤開発への応用
  4.リガンドの配座解析と複合体モデリング
  5.複合体モデリング構造による検証
  6.ゲノム創農薬の問題点と展望
  7.おわりに