レアメタルの代替材料とリサイクル

技術者・研究者向けの書籍紹介


レアメタルの代替材料とリサイクル

発刊日 2008年3月 ISBN978-4-7813-0002-3 C3057
体 裁 B5判,350頁


刊行にあたって
 レアメタルはいまや我々の暮らしと生産に不可欠な要素となっている。毎年末に街々を彩るイルミネーションはレアメタルを用いたLEDの進歩の賜物である。地球温暖化対策の高まりは従来の数倍から十数倍の高効率のエネルギー利用ができる装置や設備を求めており,磁気,電気,光,熱などの諸分野でレアメタルが発揮する有用で特殊な性質がますます期待されるようになっている。

 このようなレアメタルへの需要の高まりはわが国ばかりではない。BRICs諸国(ブラジル,ロシア,インド,中国)と呼ばれる国々をはじめとして世界全体が急速な経済の拡大を遂げている。しかもこのような国こそイノベーションの導入は迅速に進みやすく,携帯電話,太陽光発電などレアメタルを必要とするハイテク技術の浸透は社会基盤整備以上に著しく拡大しているケースが多い。

 これに対して,地殻から掘り出される資源の量は限られている。現時点で2050年までに多くのレアメタルの需要が現在の確認埋蔵量の数倍を越えることが予想されているが,このような背景を考えると,現在の資源リスクはかつて1970年代に「成長の限界」として指摘された資源危機よりも深刻な状態に立ち至っているといえる。

 資源リスクを回避する方向は基本的に三つである。すなわち,「見つけること」「うまく使うこと」「替わりを探すこと」である。本企画では,この後者ふたつに相当する「循環(リサイクル)」および「代替」に関する技術開発の現段階の最新の取組みを集めている。わが国の素材技術は鉄鋼から太陽光発電素子に至るまで世界の最先端の位置でこれまでも多くの課題を解決してきた。本書が資源リスクに対しても新たな技術開発で乗り越えていこうとする技術者や研究者にとってあらたなヒントと確信をもたらすことが出来れば幸いである。

(「はじめに」より抜粋)

2008年3月
(独)物質・材料研究機構 原田幸明
東北大学 中村崇



書籍の内容

第1章 イノベーションと資源リスク
1. 情報技術とレアメタル―ハードディスク装置におけるレアメタルの状況―(中谷亮一,稲葉信幸)
  1.1 はじめに
  1.2 ハードディスク装置におけるレアメタル
    1.2.1 ハードディスク装置の進歩と装置の概要
    1.2.2 磁気ヘッドにおけるレアメタル
    1.2.3 磁気記録媒体(ディスク)におけるレアメタル
  1.3 おわりに

2. 輸送技術とレアメタル―自動車,鉄道,航空機とレアメタル―(熊井真次)
  2.1 自動車とレアメタル
    2.1.1 排気系部品
    2.1.2 排ガス浄化用触媒
    2.1.3 モータ
    2.1.4 バッテリおよび燃料電池
  2.2 鉄道とレアメタル
    2.2.1 車体用材料
    2.2.2 車体以外の構造材料
    2.2.3 軌道施設用ならびに電力施設用材料
  2.3 航空機とレアメタル
    2.3.1 航空エンジン用材料の変遷と動向
    2.3.2 Ti合金の材料開発
    2.3.3 Ni基超合金の材料開発

3. 社会基盤技術とレアメタル―火力発電プラント用フェライト系耐熱鋼とレアメタル―(阿部冨士雄)
  3.1 はじめに
  3.2 フェライト系耐熱鋼,オーステナイト系耐熱鋼の特徴と開発の系譜
  3.3 焼戻マルテンサイト組織とクリープ強化機構
  3.4 クリープ強化のための合金元素の有効利用
    3.4.1 ナノ析出物のみの分散によるクリープ強化
    3.4.2 ボロンによる粒界近傍M23C6炭化物の長時間微細分散,組織安定化
    3.4.3 Re添加による長時間クリープ強度向上
  3.5 析出物粗大化,有害相生成等による強化機能喪失
  3.6 Crレスアロイ9Cr鋼のプロセス利用による表面Cr濃化

4. 医療技術とレアメタル―金属系バイオマテリアルとレアメタル―(新家光雄)
  4.1 はじめに
  4.2 生体用Niフリーステンレス鋼およびコバルト合金
  4.3 生体用チタン合金
  4.4 生体用マグネシウム合金
  4.5 歯科用貴金属合金

5. 資源リスクの現状とリスク軽減の道―希少資源・元素の現状―(原田幸明)
  5.1 はじめに
  5.2 資源リスクの現段階
  5.3 資源の持続可能性の3つの観点
  5.4 地球環境の持続可能性への指標:エコロジカル・リュックサック
  5.5 人類経済の持続性への指標:資源疲弊度
  5.6 国レベルの持続性:供給安定性
  5.7 持続可能性への希少資源・元素戦略

第2章 元素代替・減量技術
1. インジウム(In)代替ZnO透明導電膜(藤田静雄)
  1.1 透明導電膜におけるレアメタルへの依存
    1.1.1 透明導電膜の利用分野
    1.1.2 In資源の問題
  1.2 ZnO透明導電膜
    1.2.1 ZnO透明導電膜の特性
    1.2.2 アクティブデバイス材料としてのZnO
    1.2.3 ZnO透明導電膜の成膜技術
    1.2.4 ZnO透明導電膜の加工技術
    1.2.5 ZnO透明導電膜の将来
  1.3 各種透明導電膜
    1.3.1 無機系材料薄膜
    1.3.2 有機系材料薄膜

2. 希土類磁石向けディスプロシウム(Dy)使用量低減技術開発(杉本諭)
  2.1 はじめに
  2.2 Nd-Fe-B系磁石の市場と用途
  2.3 Nd-Fe-B系磁石
  2.4 省Dyの必要性
  2.5 今後の研究

3. ニッケル(Ni)代替ステンレス鋼(片田康行)
  3.1 はじめに
  3.2 世界の研究動向
  3.3 国内の研究動向
  3.4 加圧ESR法による高窒素ステンレス鋼(HNS)の創製
  3.5 高窒素ステンレス鋼(HNS)の機械的性質
  3.6 シャルピー衝撃試験
  3.7 高窒素ステンレス鋼(HNS)の耐食性
  3.8 N添加による耐食性向上発現機構
  3.9 高窒素ステンレス鋼(HNS)の加工性
  3.10 おわりに

4. 鉛(Pb)代替圧電材料(任暁兵,劉文鳳)
  4.1 はじめに
  4.2 世界の研究動向
    4.2.1 BaTiO3をベースにした鉛フリー圧電材料
    4.2.2 KNbO3と(KNa)NbO3をベースにした鉛フリー圧電材料
    4.2.3 Bi0.5Na0.5TiO3系
    4.2.4 Bismuth層状圧電体
    4.2.5 TungstenBronze構造を持つ圧電材料
  4.3 日本国内の鉛フリー圧電材料に関する研究状況
  4.4 今後の研究動向
  4.5 まとめ

5. 超硬合金におけるタングステン(W)の代替(郄木研一)
  5.1 はじめに
  5.2 タングステン資源の現状
  5.3 超硬合金およびサーメットの開発動向
    5.3.1 超硬合金の開発動向
    5.3.2 サーメットの開発動向
  5.4 超硬合金代替材料
    5.4.1 TiN系サーメット
    5.4.2 ホウ化物系サーメット
  5.5 今後の開発動向

6. 亜鉛(Zn)代替防食鋼板(藤本慎司)
  6.1 鉄鋼材料の表面処理
    6.1.1 自動車用鋼板
    6.1.2 家電用プレコート鋼板
    6.1.3 建築・建材用塗装鋼板
  6.2 亜鉛の資源状況
  6.3 亜鉛の環境規制
  6.4 亜鉛代替への要請と亜鉛めっきに代る新表面処理に必要とされる特性
    6.4.1 工業プロセスとしての優位性
    6.4.2 亜鉛の耐食性
    6.4.3 加工性 
  6.5 亜鉛代替新表面処理
    6.5.1 亜鉛代替金属被覆―溶融めっき―
    6.5.2 亜鉛代替金属被覆―非水電解めっき―
    6.5.3 その他の亜鉛めっき代替

7. コバルト(Co)代替リチウム電池(菅野了次)
  7.1 リチウム電池レアメタル
  7.2 リチウム電池の現状
  7.3 リチウム電池の需要
  7.4 リチウム電池とは
  7.5 リチウム電池の用途
  7.6 コバルト代替リチウム電池正極材料
  7.7 電池材料のリサイクルについて
  7.8 蓄電デバイスにおけるリチウム

8. 希土類元素フリーのマグネシウム(Mg)合金(千野靖正)
  8.1 はじめに
  8.2 希土類フリー耐熱Mg合金
  8.3 組織制御を利用した希土類フリー耐熱Mg合金

9. 白金(Pt)およびパラジウム(Pd)触媒の新規調製と効率利用技術(森浩亮,白仁田沙代子,山下弘巳)
  9.1 はじめに
  9.2 Ti含有メソポーラスシリカ担体へのPt固定化
  9.3 Ti含有ゼオライト担体へのPd固定化
  9.4 Pdナノ触媒の逐次反応プロセスによる高効率利用
  9.5 おわりに

第3章 全面代替のための材料設計(物質の属性代替)
1. ナノ構造を利用しセメントを半導体,金属,そして超伝導体に変える:C12A7エレクトライドの電子物性と電子構造(細野秀雄)
  1.1 はじめに
  1.2 ナノポーラス結晶C12A7
  1.3 C12A7の電気伝導性の発見
  1.4 エレクトライド
  1.5 ケージの中の電子状態
  1.6 絶縁体-金属転移
  1.7 金属-超電導転移
  1.8 C12A7エレクトライドの応用とこれからの展開

2. 有機材料によるシリコン代替―有機エレクトロニクスの可能性―(若山裕)
  2.1 はじめに
  2.2 有機トランジスタの現状と課題
  2.3 有機トランジスタ開発の実施例:クウォーテリレン分子を例に
  2.4 有機トランジスタの今後
  2.5 その他の有機エレクトロニクス素子
  2.6 おわりに

3. 稀少元素フリー鉄鋼材料(津粼兼彰)
  3.1 はじめに
    3.1.1 鉄鋼にまだ研究することがあるのですか?―愚問と誤解に答える―
    3.1.2 社会環境変化に対応する基盤材料の研究開発が必要
    3.1.3 組織制御プロセス技術が鍵を握る
  3.2 超鉄鋼研究で捉えたもの−鉄鋼の奥深さとメタラジーの可能性
    3.2.1 合金元素選択の幅を広げた結晶粒微細化の組織制御(脆化元素活用)
    3.2.2 フェライト鋼の使用温度を高めた粒界析出物の組織制御(長時間組織安定化)
    3.2.3 高強度ボルトを実現した遅れ破壊の克服(ナノ炭化物活用)
    3.2.4 内部割れの克服による疲労強度の向上(組織の微細均一化)
    3.2.5 今こそ求められているマテリアルサイエンス

4. 材料中の水素誘起新機能(亀川厚則,藤田麻哉,山口明,中東潤,山内美穂,岡田益男)
  4.1 はじめに
  4.2 水素が有するナノ加工プロセス機能
    4.2.1 チタン系合金の超微細組織化と超塑性
    4.2.2 Al系合金などのHDDR現象発現とナノ結晶化
  4.3 材料中における水素固溶誘起新機能
    4.3.1 水素吸放出による光学特性変化を利用した窓用材料の開発
    4.3.2 メタ磁性材料における水素導入による磁歪・応力センシング機能応用
    4.3.3 金属ナノ粒子における水素誘起高機能発現
  4.4 まとめ

5. 3d遷移金属系材料の機能発現による元素代替(藤田麻哉,西野洋一,土谷浩一,竹中康司,深道和明)
  5.1 はじめに
  5.2 元素代替のための3d系機能材料設計
    5.2.1 Fe基熱電変換材料
    5.2.2 Ni基アクチュエータ材料
    5.2.3 Mn基負熱膨張材料
    5.2.4 Fe基磁気冷凍材料
  5.3 おわりに

6. ポーラス構造による材料減量化・高機能化(袴田昌高,馬渕守)
  6.1 はじめに
  6.2 ポーラス金属の作製法
    6.2.1 液相発泡法
    6.2.2 半溶融・固相発泡法
    6.2.3 インベストメント鋳造法
    6.2.4 一方向凝固法
    6.2.5 スペーサー法
    6.2.6 脱合金化法
  6.3 ポーラス構造による高機能化
    6.3.1 衝突エネルギー吸収
    6.3.2 吸音
    6.3.3 防振
    6.3.4 孔径のナノ化による高強度化
    6.3.5 ナノポーラス金属の特異機能
  6.4 おわりに

7. 第一原理シミュレーション計算の概要と代替材料開発への適用(川添良幸,水関博志,佐原亮二)
  7.1 概要
  7.2 ITOのスズ置換の安定サイトに関する理論研究
  7.3 白金合金上におけるCOの酸化に関する理論研究
  7.4 代替材料設計開発における第一原理シミュレーション計算の将来展望

8. ラティスエンジニアリングによる機能代替設計(知京豊裕)
  8.1 はじめに
  8.2 ラティスエンジニアリングとは
  8.3 コンビナトリアル薄膜合成と高速評価手法
  8.4 構造評価
    8.4.1 コンビナトリアルX線回折解析法
    8.4.2 透過型電子顕微鏡による構造評価
  8.5 コンビナトリアル材料合成と酸化物熱電材料の探索
  8.6 まとめ

第4章 レアメタルのマテリアルフローと社会ストック
1. レアメタルの社会リザーブの意味(中村崇)
  1.1 はじめに
  1.2 循環型社会における金属元素の利用
  1.3 大量生産システムにおける資源
  1.4 保管することの問題点と意味
  1.5 まとめ

2. フラットパネルディスプレイを中心としたインジウム(In)のマテリアルフロー(中條寛,中村崇)
  2.1 マテリアルフローの大宗とそのポイント
  2.2 マテリアルフロー把握における課題
  2.3 将来的に考えられるシナリオと対応課題

3. 触媒を中心としたPGMのマテリアルフロー(中條寛,中村崇)
  3.1 マテリアルフローの大宗とそのポイント
  3.2 マテリアルフロー把握における課題
  3.3 将来的に考えられるシナリオと対応課題

4. 超硬工具を中心としたタングステン(W)のマテリアルフロー(中條寛,中村崇)
  4.1 マテリアルフローの大宗とそのポイント
  4.2 マテリアルフロー把握における課題
  4.3 将来的に考えられるシナリオと対応課題

5. Nd-Fe-B磁石のマテリアルフロー(中條寛,中村崇)
  5.1 マテリアルフローの大宗とそのポイント
  5.2 マテリアルフロー把握における課題
  5.3 将来的に考えられるシナリオと対応課題

6. 廃小型電子機器におけるレアメタルストックのポテンシャル(白鳥寿一,中村崇)
  6.1 はじめに
  6.2 廃電気・電子機器の廃棄量の推計
    6.2.1 廃電気・電子機器の範囲
    6.2.2 推計の条件
    6.2.3 推計結果
  6.3 廃電気・電子機器の金属含有量の推計
    6.3.1 金属含有量推定の考え方
    6.3.2 金属含有量の推定結果
  6.4 おわりに

7. 廃電子機器の国際循環(村上進亮)
  7.1 国際資源循環
  7.2 日本で発生する廃電子機器のフロー
    7.2.1 家電4品目のフロー
    7.2.2 PCのフロー
    7.2.3 その他の廃電子機器
    7.2.4 輸出後の流れ
  7.3 E-wasteの国際資源循環のメリットとデメリット
    7.3.1 メリット
    7.3.2 デメリット
  7.4 今後の見通し

第5章 リサイクル技術の動向
1. レアメタルのリサイクル全般(岡部徹)
  1.1 はじめに
  1.2 レアメタルのリサイクルについて
  1.3 インジウムなどの副産物レアメタルのリサイクル
  1.4 需要が急増するレアアースのリサイクル
  1.5 高い収率でリサイクルされている貴金属レアメタル
  1.6 おわりに

2. レアアースのリサイクル(中村英次)
  2.1 はじめに
  2.2 希土類の応用
  2.3 希土類リサイクルの実施状況
  2.4 磁石
    2.4.1 SmCo磁石
    2.4.2 NdFeB磁石
  2.5 光磁気ディスク媒体,超磁歪材
  2.6 ニッケル水素電池
  2.7 蛍光体
  2.8 触媒
  2.9 研磨剤
  2.10 今後

3. タングステン(W)のリサイクル(井口剛寿,池ヶ谷明彦)
  3.1 はじめに
  3.2 タングステンリサイクルの現状
  3.3 タングステンのリサイクル技術
    3.3.1 亜鉛処理法
    3.3.2 酸化-湿式化学処理法
    3.3.3 アルカリ溶解法
    3.3.4 その他のリサイクル技術
  3.4 まとめ

4. ハイブリッド自動車ニッケル水素電池のリサイクル(天満屋泰彦)
  4.1 はじめに
  4.2 開発背景
  4.3 ニッケル水素二次電池
  4.4 開発技術
  4.5 使用済電池の処理技術
    4.5.1 破砕・分別
    4.5.2 回収正極活物質の精製
    4.5.3 回収負極活物質の精製
  4.6 実証試験結果
    4.6.1 目的金属回収率
    4.6.2 製品品質特性
  4.7 おわりに

5. インジウム(In)のリサイクル(中村崇)
  5.1 リサイクルの基本
  5.2 In生産プロセス
  5.3 リサイクル技術
  5.4 将来の技術開発の方向性
  5.5 まとめ

6. 白金族金属のリサイクル(岡部徹,中田英子)
  6.1 はじめに
  6.2 白金族金属の需要と供給
  6.3 白金族金属の製錬の概要
  6.4 白金族金属のリサイクル
  6.5 おわりに